春にして君を離れ
アガサ・クリスティ/中村妙子
早川書房
2004年04月
概要
優しい夫、よき子供に恵まれ、女は理想の家庭を築き上げたことに満ち足りていた。が、娘の病気見舞いを終えてバグダッドからイギリスへ帰る途中で出会った友人との会話から、それまでの親子関係、夫婦の愛情に疑問を抱きはじめる…女の愛の迷いを冷たく見据え、繊細かつ流麗に描いたロマンチック・サスペンス。
ステータス
読んだ
メモ
この女ーー!!!! アーーーーーーーーーッッッッ!!!!!!
河伊さんの感想・評価
ありふれた怪物がひたすら自省する話。 他人のことを考えず、ひたすら自分の考えを押し付ける自己中自己満モンスターのジョーンが、人から切り離された砂漠の中で自分のことを考え続け、自分の正体に気づきかけた。気づきかけたんだ。だがこの女はその気づきかけた真実を、見なかったことにした。 なんてこった。俺はスカッとジャパンのような爽快感を期待していたんだ。ジョーンが今までの行いの報いを受けて、徹底的に苦しい目に遭ってほしいと思っていた。だがこれは勧善懲悪ものではない。あくまでこれは「ジョーンが勝手に思ったこと」を書いただけなんだ。 私は完璧な主婦、優しい夫と愛する子どもたち。皆幸せにしてきた。私も幸せ。 ジョーンは今までずっとそう思ってきた。それが間違いだったと気づきかけたが、それすらも「ジョーンが勝手に思ったこと」にすぎない。幸せと思うのも自分、それがすべて間違いだと思うのも自分。だったらジョーンは自分に都合がいい前者を盲目的に信じることにした。一人称小説の妙だよねえ。この話はずっと、ジョーンの偏った見方で進む。哀れで愚かで平凡な女。ずっと弱い、ずっと他者と向き合うことから逃げてきた。 ジョーンって本当に愚かで……ずっと気づかないんだ。自分の間違いを察する機会は何度もあったし「これ聞いて気づかないとかどういう頭してんの??」と思う決定的な瞬間はいくつもあった。しかしジョーンは気づかなかった。いや本当は気づいていたが、気づかないふりをずっと続けていたのだろう。そのほうが楽だから。 もうマジでジョーンが楽な方に逃げた瞬間天を仰いだね。スカッとジャパンを期待してたから。 問題はジョーンに現実を教えなかったロドニーや子供たち。子供たちは仕方ないにしてもロドニーの罪と責任は重い。この怪物を生み出したのはロドニーのせい。ロドニーも妻に現実を思い知らせるという面倒なことから逃げ続けた。ロドニーは被害者だが、その被害の原因はロドニー自身だ。 本当に恐ろしいのはジョーンがありふれた怪物であること。ジョーンのような人間はその辺にゴロゴロ転がっている。それが怖い。人間誰しも、自分の間違いに気付いたとしても直視したくないものだ。そして他人もそれをわざわざ直させるほどいい人たちではない。結局のところ自分で何とかするしかないのだと思わされた。
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