ほわほわ私の男
私の男

私の男

桜庭 一樹

文藝春秋

2010年04月

概要

落ちぶれた貴族のように、惨めでどこか優雅な男・淳悟は、腐野花の養父。孤児となった十歳の花を、若い淳悟が引き取り、親子となった。そして、物語は、アルバムを逆から捲るように、花の結婚から二人の過去へと遡る。内なる空虚を抱え、愛に飢えた親子が超えた禁忌を圧倒的な筆力で描く第138回直木賞受賞作。

ステータス

読んだ

メモ

◎わたしの目から、涙がとろとろと染みだした ◎わたしのわたしそのものである部分ー見たことも触ったこともない、魂の部分が、ゆったりと死んで、震えながら急速に腐っていくようにも感じられた ◎最低、といったのに、なぜだか夢見るような響きだった ◎花の背後には、なぜか嵐の気配がした ◎瞳は、朝なのに、奈落のような暗い色をしていた ◎流氷の上にいると、寂しくて心細い気持ちが押しよせてきた。自然だけが、人に突きつけることのできる寂しさだった ◎興奮は、死ぬことに似ていた。知ら、な、かった…

◎わたしの目から、涙がとろとろと染みだした ◎わたしのわたしそのものである部分ー見たことも触ったこともない、魂の部分が、ゆったりと死んで、震えながら急速に腐っていくようにも感じられた ◎最低、といったのに、なぜだか夢見るような響きだった ◎花の背後には、なぜか嵐の気配がした ◎瞳は、朝なのに、奈落のような暗い色をしていた ◎流氷の上にいると、寂しくて心細い気持ちが押しよせてきた。自然だけが、人に突きつけることのできる寂しさだった ◎興奮は、死ぬことに似ていた。知ら、な、かった。 ◎煙は未練がましげにゆるゆると冬空に上がっていった ◎海と陸のあいだ。人の道と、獣の道の分かれ目。善悪の、彼岸の場所に。 ◎この火傷するような熱がないと、一時も生きられない ◎こころにあふれだした死のように暗い興奮に、これがおとうさんの欲望の正体なのかなと思った ◎愛情にばかりあふれて、与える相手をみつけられないような、湿ってあったかい、男たち。 ◎冬の終わりは、雪と泥がミックスされて、やたらはねて、町中がどす黒く汚くなる ◎てらてらした暗い海が、たったいまの悪ふざけの余韻に浸るように、静かに笑っていた ◎夜空に花火が、咲いて、腐って、散った ◎わたしは淳悟の、娘で、母で、血のつまった袋だった。娘は、人形だ ◎おとうさんがさがしているなにかは、とうに失われたもので、娘の血の中にしかもう残っていない。だから、力尽くで吸いだしたんだ ◎歩くたびに揺れる、つないだ手と手が、ふたりのからだを結ぶ真っ黒な鎖のように見え

ほわほわさんの感想・評価

友人に“よくある恋愛ではないから覚悟して読んで”と言われていたのに、ちゃちゃっと読み進める程度の心持ちで臨んだ私はド阿呆。 じめじめした雨の日や暗闇に包まれた夜中には読もうという気力が起きない。太陽が顔を出し、影を光が上回る時間帯・場所でないと、この本の重みには耐えられなかった。 まとわりつくような生々しさを持って、鋭利な何かを背に突き立てられるような恐ろしさを感じて、上下左右に大きく波打つ心を鎮めつつなんとか読み終わった。続けて読むことができなかった。この本を手に取ることさえ躊躇する時もあった。でもどこかに続きを読みたい自分もいて、そんな気持ちの上がり下がりに折り合いをつけるのはかなり時間がかかった。にも関わらず、登場人物の人物像は未だに掴みきれない。人とやりだけでなく場所、匂い、色、音など、何かしらが抜け落ちている感覚が拭えない。たった2人のだけの世界にいる淳悟と花のやり取りを追うと、羨ましくも安心している妙な違和感が付き纏ってくる。匂いや雰囲気に他の人とは異なる何かを感じて本能的に惹かれるという、理屈ではない点において理にかなっている。 自分は一生のうちに、憧れや理想、優越感、妥協、比較といった一切の要素を持たず、ただ感覚的に衝動的に生物的に愛しあう相手を見つけられるのだろうか。決してそれが幸せへ続く道とは限らなくとも、それでもなりふり構わずその人に寄り添う自分に出会うことがあるのだろうか。 家族の穴という共通点を有する二人の人生は、出会いから別れまでの15年だけで形を変えていった。別れから始まるこの物語の変化は、ある種必然であるかのように時間を遡っていく。 倫理的に許されない行為の積み重ねが、暗くて深い二人の欠陥を確かめ合っているようだった。生と死、善と悪、対極のようで表裏一体。淳悟と花を取り巻く人々と二人のコントラストがあまりにも鮮明で、余計に世界観が浮いている気がした。

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