ほわほわ初恋
初恋

初恋

中原みすず

新潮社

2008年08月

概要

愛に見放されていた高校時代、みすずが安らげるのは、新宿の薄暗いジャズ喫茶だけだった。そこには仲間たちがいる。亮、テツ、タケシ、ヤス、ユカ。そして彼らと少し距離をおく、岸という東大生。ある日、みすずは岸に計画を打ち明けられる。権力に、頭脳で勝負したいというのだー。三億円事件には少女の命がけの想いが刻み込まれていた。世紀を超えて読み継がれる、恋愛小説。

ステータス

読んだ

メモ

◎記憶は夢に姿を変えて涙を流させ、愛情は罪の意識となり食欲を奪う ◎だれかの中に私がいること、だれかの心の中に私が生きていること、それは、いままで味わったことのない幸福だった ◎店内のライトの柔らかな光がみんなのコーヒーカップと灰皿に淡く歪んだ影を描き出していた ◎ふたりは限りなく平行に近い二本の直線だった。彼らはお互いの内に、自分の失われた半身を重ねていたに違いない ◎「権力」という括弧つきで表現されるような存在に挑戦することは正しい、そんなナイーブな思想を毎日呼吸していた…

◎記憶は夢に姿を変えて涙を流させ、愛情は罪の意識となり食欲を奪う ◎だれかの中に私がいること、だれかの心の中に私が生きていること、それは、いままで味わったことのない幸福だった ◎店内のライトの柔らかな光がみんなのコーヒーカップと灰皿に淡く歪んだ影を描き出していた ◎ふたりは限りなく平行に近い二本の直線だった。彼らはお互いの内に、自分の失われた半身を重ねていたに違いない ◎「権力」という括弧つきで表現されるような存在に挑戦することは正しい、そんなナイーブな思想を毎日呼吸していた ◎彼を覆いつくしていた無機質な皮膜に亀裂が入り、ひとりの生きた人間の姿がのぞいているのだ ◎疑問を言葉にした瞬間あたりの空気が一変して、冷たい敵意のようなものが自分を取り巻くのが怖かった ◎秘密とは、それがやましいものであれ、ときにはやましいからこそ、また分け合う人数が少なければ少ないほど甘美なものだ ◎私の男性恐怖症は、自分の身体への嫌悪感の裏返しだった ◎今朝の現実がもう現在の幻想に変わりつつある。その幻想が記憶という形をとるまで、少し時間を要した ◎遠くの潮騒とストーブの炎が、沈黙を埋めた ◎はじめの驚きと動揺が、次第に激しく燃え上がった感情へと変わっていった。それは、嫉妬だった ◎のどぼとけ 切って恋の血 見せようか ひとりがっての 君の背中に ◎忘れたはずの記憶、だれにも知らせなかった過去が、先ほどまでの漠然とした期待と幸福を鷲掴みにし、ゆっくりと私を侵蝕していった ◎言葉の空白を寄り添うことで埋めてきた岸との関係が、泡沫に過ぎないことを私は痛烈に悟った ◎私たちが共に呼吸をした時間、ふたりを結びつけている幻想が六畳間を埋め尽くし、窓から溢れ出さんばかりの恍惚に、私は息をのんだ ◎喜びとも、悲しみとも重なり合いながら、そこから飛翔しようとする感情に、唇が震えながら開いた ◎幼いころから漠然と抱き続けた劣等感が、涙とともに流れ出し、少しずつ消えていった ◎グラスに放り込まれた灰色の雪、汚れを知らぬ白でもなく、悪意に染まった黒でもない、灰色の雪が新宿であり、仲間たちだった ◎彼らは未来と過去を手に入れて大人になるのだ。想い出という過去と、責任という未来を。そのとき失われるもの、それは青春という名の現在

ほわほわさんの感想・評価

三億円事件に絡めた作品は多数あるそうだが、読書をしない私にとって、はじめましてのジャンル。 ノンフィクションとしながらフィクションを前提としている曖昧さが、文章のリアリティとのギャップをより際立たせている。予備知識がなければタイトルから三億円事件を想像などできない。けれども読みきった時にはこのタイトルが最も端的で最適な言葉だと確信できる内容だった。 その特異性と不明確さゆえに、本だけでなく映画や漫画などで様々な説が唱えられているようだが、三億円事件の裏側の無限の可能性を感じさせられた。事件はあくまで副次的な立場で、みすずと岸の真っ直ぐながら人間の影や思惑が交錯する日々が強く胸を掴んで離さなかった。 本のページ数と内容が比例しないベストオブコスパ最強本。ハッピーエンドでもない、想定外の展開が待ち受けているでもない、それでもどこか感じる読後のぬくもりは、青春を思い起こさせてくれる二人のやりとりのおかげだと思う。

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