神様のボート
江國香織
新潮社
2002年06月28日頃
概要
昔、ママは、骨ごと溶けるような恋をし、その結果あたしが生まれた。“私の宝物は三つ。ピアノ。あのひと。そしてあなたよ草子”。必ず戻るといって消えたパパを待ってママとあたしは引越しを繰り返す。“私はあのひとのいない場所にはなじむわけにいかないの”“神様のボートにのってしまったから”-恋愛の静かな狂気に囚われた母葉子と、その傍らで成長していく娘草子の遙かな旅の物語。
ステータス
読んだ
メモ
◎すぎたことはみんな箱のなかに入ってしまうから、絶対になくす心配がないの ◎あたしはあそこではじめて日ざしの色を憶えた ◎ある場所で浮かないこととある場所に馴染むこととは全然別であるらしい ◎いつかそう言ったママの横顔は、ぞっとするくらい淋しそうだった ◎あたしはときどき思うのだけれど、ママはイカレている。パパに関して、あのひとは完全にイカレている ◎一度出会ったら、人は人をうしなわない ◎煙草とコーヒーとチョコレートがママの栄養源で、仕事がママの安定剤、パパがママの支えで生…
◎すぎたことはみんな箱のなかに入ってしまうから、絶対になくす心配がないの ◎あたしはあそこではじめて日ざしの色を憶えた ◎ある場所で浮かないこととある場所に馴染むこととは全然別であるらしい ◎いつかそう言ったママの横顔は、ぞっとするくらい淋しそうだった ◎あたしはときどき思うのだけれど、ママはイカレている。パパに関して、あのひとは完全にイカレている ◎一度出会ったら、人は人をうしなわない ◎煙草とコーヒーとチョコレートがママの栄養源で、仕事がママの安定剤、パパがママの支えで生きる理由で、あたしがママの喜びで宝物なのだ、と ◎自由と不自由はよく似ていて、ときどき私には区別がつかなくなる ◎小さいころに好きだったからといって、ずっと好きでいなくちゃならないわけではないと思う ◎細胞の一つ一つが抱えている記憶。その一つ一つがふいに立ち上がり、風に揺れる草みたいに不穏に波立ってしまう季節 ◎言葉で心に触られたと感じたら、心の、それまで誰にも触られたことのない場所に触られたと感じてしまったら、それはもう「アウト」なのだそうだ ◎頼れるものと頼れないものの区別について、あたしはママより現実的な考えをもっている ◎思いがけないことに、皮膚がたちまち記憶をとり戻し、手も足も髪もみるみる周囲の空気に順応するのがわかった ◎信じられないほどのなつかしさだ。感情としてのそれではない。頭や心は硬直しているのに、体が勝手に呼吸してしまうなつかしさ ◎広告文字の入った鏡に現実が映っていた。何もかも捨てて旅にでたとき、私は二十代の娘だったのだ
ほわほわさんの感想・評価
母と娘の2人の視点から交互に描かれる日常。街を“旅がらす”のように転々としつつ、どの場所にも“馴染まない”ことで男が帰ってきてくれると信じる母の姿は、夢見がちな少女的思考で止まっているだけだと思っていたが、読み進めると一筋縄ではいかないらしい。その程度があまりにも甚だしく、常軌を逸した言動が目につくようになるのだ。 幼いころは母の言葉を(全てではないにしろ)信じていた娘も年齢を重ねるにつれ、母の理想のなかで生きることに息苦しさを感じ始める。親離れすることは普通のことでありながら、ある種浮世離れした母の生き方や考えに疑問を抱き離れる決意を固める娘に、母を助ける意味合いも含まれているように思えた。 ラストシーンも本当に彼が迎えにきてくれたのか、幻想の拡張に過ぎなかったのか、曖昧だった。現実を生きつつも馴染まない、夢のような過去にすがる母親の様子を、年齢と土地の変化に合わせて微妙なズレを描く。日常に潜む狂気を、あからさまな出来事ではなく静かさや穏やかさの中に紛れさせる技術は確かだと思った。 でも個人的には…もう少し大きな揺れで心を掴まれる感覚が好きなので、まだ早かったのかなという印象。
この本を読んだ人の感想
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