ほわほわ整形前夜
整形前夜

整形前夜

穂村 弘

講談社

2012年07月

概要

だが、と私は思う。日本女性の美への進化もまだ完璧ではない。例えば、踵。あの踵たちもやがては克服され、「おばさんパーマ」のように絶滅してゆくのだろうか。かっこ悪い髪型からの脱出を試み、大学デビューを阻む山伏に戦く。完璧な自分、完璧な世界を強く求めながら、平凡な日常の暴走に振り切られる生ぬるき魂の記録。人気歌人の頭からあふれ出す、思索のかけらを集めたエッセイ。(講談社文庫) 人生はぴんとこない戦いの連続だ。 人気歌人・穂村弘の頭からあふれ出す、思索のかけらを集めたエッセイ だが、と私は思う。日本女性の美への進化もまだ完璧ではない。例えば、踵(かかと)。あの踵たちもやがては克服され、「おばさんパーマ」のように絶滅してゆくのだろうか。かっこ悪い髪型からの脱出を試み、大学デビューを阻む山伏に戦(おのの)く。完璧な自分、完璧な世界を強く求めながら、平凡な日常の暴走に振り切られる生ぬるき魂の記録。 非エレガンスのドミノ倒し 七三からの脱出 髪型との戦い 男の証 素敵男子への第一歩 著者近影 映画と現実 もうひとつの時間 女たちが消える日 檸檬の記憶 愛し合える身体 普通列車「絶望」行 はじめての本 好き好きセンサー 他者の心の謎 整形前夜 逸脱者の夢 来れ好敵手 1981年の「山伏」 おとなしい動物のような車たちの世界 絶体絶命 絶体絶命・その2 いちばん恥ずかしかったこと トマジュー そんな筈はない 透明な夏 思春期の薬 自意識トンネル 裏返しの宝石 共感と驚異 共感と驚異・その2 共感と驚異・その3 〆切 本を読むひと タイトル・その2 サイン会 ヤシンデ 本を贈る デッドライン 定量制 最適外出本 書き出し 作品予知 「読者」の謎 生身問題 古本と「差額」 シガレット香 書評 表現の痕跡 濁った色 言葉と「私」 言葉の迷宮(低次元バージョン) 「変」になる 感性 ふたつの人生が混ざる場所 言語感覚 言語感覚・その2 言語感覚・その3 異変への愛 京都の学生になりたい 東京のバリア 美への進化 してはいけない恋なんて 一発逆転への挑戦 「うずまき」の肌 アロマテラピー グアムとの戦い ホテルとの戦い 引っ越しと結婚と古本屋 20分の3の恐怖 短時間睡眠への憧れ 裸足で来やがって 恋への挑戦 二十一世紀三十一文字物語  その1 リモコン  その2 完全腕枕  その3 「のぞみ」  その4 日の丸  その5 人生カメラ  その6 クレーム  その7 ゴキブリ あとがき

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読んだ

メモ

◎これはいつか「ほろびる」ことが信じられないような若さのただなかにあるからこそ成立する、逆説的なナルシシズムであろう ◎大人の男がしゃがみ込んだあの姿が、「いっぱいいっぱい」がかたちとして目に見えたあの瞬間が、生々しく甦ることがある ◎一部分を切り取ってクローズアップすることで、好敵手同士の戦いのなかの「運命のふたり」とでもいうべき要素が強調され、その甘美さが増幅されているわけだ ◎微笑んではいたが、その口調と表情から大昔の出来事とは思えないほどの切実な痛みの感覚が伝わってき…

◎これはいつか「ほろびる」ことが信じられないような若さのただなかにあるからこそ成立する、逆説的なナルシシズムであろう ◎大人の男がしゃがみ込んだあの姿が、「いっぱいいっぱい」がかたちとして目に見えたあの瞬間が、生々しく甦ることがある ◎一部分を切り取ってクローズアップすることで、好敵手同士の戦いのなかの「運命のふたり」とでもいうべき要素が強調され、その甘美さが増幅されているわけだ ◎微笑んではいたが、その口調と表情から大昔の出来事とは思えないほどの切実な痛みの感覚が伝わってきた ◎子供の頃のそういう悪夢的な絶体絶命体験 ◎何でもするすると読めたあの透明な夏の日 ◎読めば読むほど病状が悪化する不思議な薬 ◎世界は「用」「役に立つ」「なくては困る」によって支配されている ◎「変」や「怪しい」や「あぶない」を避けて、人々はひたすら「生き延びる」ために頑張ろうとする ◎「桃色の虫」が見え、幻の「鐘」が聞こえなければ、「生きている意味がない」と思うのだ ◎彼らは過去や現在に敬意を払わない。その全てをなげうっても未来を掴もうとする ◎彼らの言葉の安らかさは、より大きな世界の滅びを予感させるのだ ◎スポーツを一種のドラマに、つまり「驚異」を「共感」に変換したいのだ ◎「驚異」と「共感」の間の時間差 ◎鬼だ。鬼が敬語のまま首を絞めにくる。 ◎人生はぴんとこない戦いの連続だ ◎運命の時間的な誤差を修正するタイムパトロール ◎傑作は才能や努力や意志の他に偶然性を伴う「何か」が加わったときに生まれる。その「何か」の輝きが表現の痕跡を消してしまうのだ ◎「自分の語彙」のなかに既に時限式の爆弾が埋まっていることもあるのだ ◎寄り道やおさぼりとは、「この人生」と「もうひとつの人生」のふたつの時間が混ざり合う場所なのではないか ◎「一見無関係な言葉同士が別次元で響き合う」という詩的原理の根底には、我々の日常の生そのものが死という絶対的意外性を内包している、という命のメカニズムがあるのだろう ◎多義的で瑞々しい意外性を含んだ表現は、「生き延びる」ために必要な情報の伝達を邪魔してしまう ◎私たちが揃って安全に「生き延びる」ためには、新聞の記事に限らず多くの場面で言葉を殺す必要がある ◎まずは「生き延びる」ことだ。「生きる」のは明日でいい。こうして「生きる」は一日ずつ後ろにずれてゆく ◎中年歌人登り棒から逆さま墜落死、自らの握力を過信?

ほわほわさんの感想・評価

2〜3ページ毎にテーマが設定されているこの本で顕著に見られるのが、幼い頃の記憶や他人の発言を状況含めた事細かな説明。それは誰にでもできることではないと思う。根源的には自意識が影響しているのかもしれないが、他人への興味関心なくして記憶に留めておくことはできないだろう。 穂村さんはおバカでどうしようもない凡人を演じる天才だと思う。本作の中にも「いちばん恥ずかしかったこと」に書かれている通り、自分とは真逆の仮面をつけることが得意なのではないだろうか。それが透けて見える人もごく稀にいるかもしれないけれど、ほとんどの人はある種の異質性というか二面性を感じる程度だからこそ余計に作者のことが気にかかるというカラクリかもしれない。 着眼点のおかしさや思考の飛躍が目立つ本作だが、作者の自意識過剰さを愛おしいとすら思えるのは、きっとその姿をどこか客観的にテンポ良く心地よい言葉選びで描き切っているからだろう。誰よりも他人の心の機微に敏感で、その原因を自分の中でああでもないこうでもないと考察している。 また読者の心が緩んだ頃に、急に「驚異と共感」「生き延びる」のような核心をついてえぐる文章が急に飛び出してくる。言葉選びに相反して、穂村さんはハンドル操作が荒々しい。運転席に座ると人格変わるタイプなのかも、などと思う。 穂村さんの脳内は常にグルグル回っていてルーレット状態だと書いてあったが、まさにその通りだと府に落ちた。だからこそ詩人として作者として唯一無二の面白さが溢れ出すのだろう。

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