2〜3ページ毎にテーマが設定されているこの本で顕著に見られるのが、幼い頃の記憶や他人の発言を状況含めた事細かな説明。それは誰にでもできることではないと思う。根源的には自意識が影響しているのかもしれないが、他人への興味関心なくして記憶に留めておくことはできないだろう。 穂村さんはおバカでどうしようもない凡人を演じる天才だと思う。本作の中にも「いちばん恥ずかしかったこと」に書かれている通り、自分とは真逆の仮面をつけることが得意なのではないだろうか。それが透けて見える人もごく稀にいるかもしれないけれど、ほとんどの人はある種の異質性というか二面性を感じる程度だからこそ余計に作者のことが気にかかるというカラクリかもしれない。 着眼点のおかしさや思考の飛躍が目立つ本作だが、作者の自意識過剰さを愛おしいとすら思えるのは、きっとその姿をどこか客観的にテンポ良く心地よい言葉選びで描き切っているからだろう。誰よりも他人の心の機微に敏感で、その原因を自分の中でああでもないこうでもないと考察している。 また読者の心が緩んだ頃に、急に「驚異と共感」「生き延びる」のような核心をついてえぐる文章が急に飛び出してくる。言葉選びに相反して、穂村さんはハンドル操作が荒々しい。運転席に座ると人格変わるタイプなのかも、などと思う。 穂村さんの脳内は常にグルグル回っていてルーレット状態だと書いてあったが、まさにその通りだと府に落ちた。だからこそ詩人として作者として唯一無二の面白さが溢れ出すのだろう。
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穂村 弘
講談社
ISBN: 9784062772310
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