とある堅実な男が疾走した。男はパリにいるという。夫人の依頼で現地へと向かった「私」に、男はこう告げた。 「絵を描きたいんだ」「何が何でも描かねばならん」「自分ではどうしようもないんだ」 皮肉屋で傲慢、そして天邪鬼の男は、ただ一点だけを見つめて描き続ける。人と社会の営みから外れ、一時の安息もなく、むしろ不幸を振りまくようにして。 男がたどり着く場所に、芸術でしか己を満たすことのできない男に、安息はあるのか。 己の内側を己の選んだ手段で形作ること。その道の果にしか存在しない景色。「人はなりたいものになるのでなく、ならざるをえないものになる」、すべての社会がそうであれば良いのにと思う。
元の読書記録を見る月と六ペンスの感想・レビュー
ウィリアム・サマセット・モーム/土屋政雄
光文社
ISBN: 9784334751586
読者の感想・読書記録
ブックミーに投稿された公開の読書記録です。感想はそれぞれの読者の意見です。
ストリックランドのことを好きになれるかと言われたら、答えはNOである。 当然のことながら、彼のことを好き嫌いで語るのは間違いだとは思っている。しかし、どうしても好きになることはできないのである。 ただ、彼の芸術…美に対する向き合いはとても好きという点が正直悔しい。 これまでの人生をすべて捨てて、絵を描きたいのみで行動することができるのは語彙はないが、素直にすごいとしか言いようがない。 これは自分では何もかもを捨てて夢を追うことはもう難しいというところからきている。 中盤は重く、そして暗く。話の内容がすべて重さを持っており、どうにもできない感情にさいなまれて読み進めていった。ストルーブは幸せになってくれ、頼む。 そしてタヒチへ舞台が移ってからが一番引き込まれた。今までのストリックランドに対する不平不満が一気になくなり、ああ、ここが彼にとっての居場所であったのかと痛感をした。 それと同時に彼の絵をこの目で見てみたかったとも思った。 結局、彼のことは嫌いだけれど、私も彼に魅せられた一人の人間なのである。
元の読書記録を見るあなたの感想も、読書仲間へ
ブックミーで読んだ本を記録して、感想を共有できます。
ブックミーアプリをダウンロード