本の感想・レビュー
九月の四分の一

九月の四分の一の感想・レビュー

大崎善生

新潮社

ISBN: 9784101265711

読者の感想・読書記録

ブックミーに投稿された公開の読書記録です。感想はそれぞれの読者の意見です。

薄雪さん

大崎善生さんの短編集『九月の四分の一』 4編の短編からなります。 1. 報われざるエリシオのために 彫刻美術館駅から小田原に向かう登山列車の中で、僕は昔を思う。大学時代、チェスに没頭していた「僕」と、親友・武井、そしてその恋人頼子の関係。3人はチェス研究会に所属していた。やがて武井と頼子は付き合うようになり、僕は疎外感を味わう。武井はエリートの道を歩き広告代理店に就職する。頼子も学芸員の進路を固めていく。僕は1人、チェスに囚われ、リアルな道を歩け出せないでいる。 話の終わりで僕は思う。人間の行いのすべては、結局無意味でそして報われないものなのだと。それでも僕は無意味な穴を掘りつづけるだろうと。なんのために、と。 2. ケンジントンに捧げる花束 将棋雑誌『将棋ファン』の編集長を務めていた「僕」は、退職を前に、イギリスの老婦人ジェーンからの手紙を受け取る。彼女の夫・吉田宗八が長年『将棋ファン』を愛読していたことを知り、感謝の言葉が綴られていた。吉田がイギリスに渡って来たのはまだ、冥王星がこの世の中に知られていなかったころだ。「僕」は彼女を訪ね、仕事をやめ、イギリスまで赴く。そこで出会った人たちの想いに、僕は救われていく。 3. 悲しくて翼もなくて 高校生のとき、札幌でロックバンドを組んでいた「僕」は、公園でギターを弾く少女・真美と出会う。アコースティックギター一本でレッドツェッペリンのロックンロールを歌う彼女はとても素敵だった。東京に出た僕を追いかけて遊びにきた真美。彼女を学園祭のライブに誘い、レッドツェッペリンの歌を歌わせ、成功を収める。まるで彼女は歌の精のようだった。しかし、その後2人は… 大人になった今でも…僕は、真美の歌をまた聴きたいと思う。そして今も彼女の歌を信じている。 4. 九月の四分の一(表題作) 作家の村川健二は原稿を仕上げた後、フランスのパリで3ヶ月程度過ごしていた。そのとき、27歳のとき、ベルギーのグランプラス広場を訪れたことを思い出す。20代のころに小説家を目指していた村川は、小説が書けず、夢破れて悲嘆にくれていた。グランプラス広場の写真を見かけた彼は、そこに行きたいと思い、ベルギーを目指した。 ブリュッセルの広場につき、夜中に雨の中途方に暮れていた村川は、高木奈緒という女性と出会い、数日間を共に過ごす…。あの頃は、苦しくて、切なくて、それでもやっぱり僕は自由だったのだ。 実は大崎善生さんの作品の中で一番素敵な短編集かもしれません。読みながらとても自分が透明になれる気がします。呼吸をして行くのが楽になります。そんな作品群です。 特に好きなのは「ケンジントンに捧げる花束」です。 「冥王星の光は、いまや全ての人に影響を与えているだろうと。」世界の果てで光り、誰も気づかないだろう冥王星のような、かすかな星の光が、実は誰かの心の支えになっていた。なんて、ロマンチックな余韻を残す物語なんでしょうか。

元の読書記録を見る

あなたの感想も、読書仲間へ

ブックミーで読んだ本を記録して、感想を共有できます。

ブックミーアプリをダウンロード