亡くなった彼女のお葬式へ行ったり、鼠の頼み事をやっているところを見ていて主人公は人を大切にできる人なんだろうなと思った。私は、人を大切にできる方だと考えていたけど私だったらどうするかなと考えた時にしないかもしれないと思った。大切にするという種類が違うようにも思ったけど、本質的な部分で私は人を大切にできていないような感じがした。耳の美しい女の子が出てくる描写がすごいなと思った。それも、"耳を出してる時"が特に。耳が美しいというだけで、惹き込まれるものかなと思ったけれど読んでいるだけで惹き込ませる村上春樹の文章力がすごいと思った。耳の美しい彼女が自分の耳について説明するシーンがある「閉鎖された耳は死んだ耳なの。私が自分で耳を殺すのよ。つまり、意識的に通路を分断してしまうってことなんだけど……わかるかしら?」という説明。この説明がこの小説を読んでいくうちに理解できる、という感じがした。あと、妻が翻訳の仕事で働いていたあの女性だったのか!という驚きがあった。110ページの「しかしそれと同時に偶然性なんてそもそも存在しないと言うこともできる。もう起ってしまったことは明確に起ってしまったことであり、まだ起っていないことはまだ明確に起っていないことである、と。つまり我々は背後の「全て」と眼前の「ゼロ」にはさまれた瞬間的な存在であり、そこには偶然もなければ可能性もない、ということになる。」という文章がすごく良かった。自分の今まで考えていたことが綺麗に言葉にされた感覚があった。黒服の秘書になぜ羊の写真を使ったのか、誰からこの写真を受け取ったかについて「言えません」と言ったシーンで、主人公にとって鼠は見捨てられない存在なんだなと感じた。黒服の秘書は「私の望みは失われてゆくものをこの目で見届けることだけだよ」と言っているけれど、どこか主人公は嵌められているようなそんな気がした。主人公も何かそんな予感を感じ取っている描写もあった。猫に運転手が"いわし"と名前を付けて「いわし、おいで」と言っているシーンが面白かった。その猫がおならを何回もして運転手が窓を開けるシーンも良かった
元の読書記録を見る羊をめぐる冒険(上)の感想・レビュー
村上 春樹
講談社
ISBN: 9784062749121
読者の感想・読書記録
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村上春樹の『風の歌を聞け』『1973年のピンボール』に続く3作品目となります。 1978年7月、大学時代に主人公と関係を持ったことのある女の子がトラックに轢かれて亡くなりました。それは妻と別れた直後の出来事でした。8月の初め、「僕」は耳専門の広告モデルの女の子と知り合い、彼女は「僕」の新しいガール・フレンドとなります。 9月後半の昼下がり、仕事を休み、ベッドの中で彼女の髪をいじりながら鯨のペニスや妻のスリップについて考えていると、ガール・フレンドが言います。「あと十分ばかりで大事な電話がかかってくるわよ」。彼女ははっか煙草を吸いながら、「羊のことよ。そして冒険が始まるの」と続けます。 その後、「僕」が相棒と共同経営している広告代理店に、右翼の大物の秘書が現れます。秘書は相棒に、担当者である「僕」と直接会って話がしたいと伝えます。 数ヶ月前、主人公のもとには鼠から手紙が届いていました。手紙には彼の放浪生活の様子と、二つの頼みごとが書かれていました。一つ目は、ジェイズバーのジェイと、かつて鼠が付き合っていた女性にさよならを伝えてほしいということ。二つ目は、羊の写った写真を人目にさらしてほしいということでした。 「僕」は依頼どおり、かつての街に戻り、ジェイズバーのジェイに伝言を伝えてビールを飲みます。このあたりの文章はとても美しく描かれています。そして、かつての鼠の彼女にも再会します。「僕」はホテル内のコーヒーハウスで彼女と会い、鼠からの二通の手紙を手渡します。その後、その街を去ります。その日は一日中、雨が降り続いていました。 物語は1978年9月に戻ります。「僕」が秘書の男と会うと、会社が制作したPR誌のページを引き伸ばした写真を見せられます。その写真には、星形の紋様のある羊が一匹紛れ込んでいました。それは鼠によって北海道から送られてきた写真でした。出所を尋ねられますが、「僕」は答えることを拒否します。 男は言います。今日から二か月以内に君が羊を探し出せれば、我々は君が望むだけの報酬を支払う。もし探し出せなければ、君の会社も君もおしまいだ。 「僕」は会社を辞め、耳の美しいガール・フレンドと共に北海道へ渡ります。 ー下巻へ続きます。 あらすじを書くのは簡単ですが、この話の魅力はあらすじではありません。 美しい情景描写、感情表現にどこまで共感できるかどうか。 「世界中が動きつづけ、僕だけが同じ場所に留まっているような気がした。一九七〇年の秋には、目に映る何もかもが物哀しく、そして何もかもが急速に色褪せていくようだった。太陽の光や草の匂い、そして小さな雨音さえもが僕を苛立たせた。」 「それ以来、僕にはもう「街」はない。僕にとって帰るべき場所はどこにもない。そう考えると僕は心の底からほっとした。もう誰も僕に会いたがってはいないのだ。もう誰も僕を求めてはいないし、誰も僕に求められることを望んではいない。」 「僕は二十九歳で、そしてあと六ヵ月で僕の二十代は幕を閉じようとしていた。何もない、まるで何もない十年間だ。僕の手に入れたものの全ては無価値で、僕の成し遂げたものの全ては無意味だった。僕がそこから得たものは退屈さだけだった。最初に何があったのか、今ではもう忘れてしまった。しかしそこにはたしか何かがあったの僕の心を揺らせ、僕の心を通して他人の心を揺らせる何かがあったのだ。 結局のところ全ては失われてしまった。 失われるべくして失われたのだ。それ以外に、全てを手放す以外に、ぼくにどんなやりようがあっただろう?」 『離婚してから彼に会うまでの五年間、私はこの街で一人きりで、まあわりに非現実的に暮していたの。知った人も殆んどいないし、たいして外に遊びに行きたくもないし、恋人もいないし、朝起きて会社に行って、図面を書いて、帰りにスーパー・マーケットで買物をして、家で一人で食事をするの。FM放送をつけっ放しにして、本を読んで、日記をつけて、風呂場でストッキングを洗うの。 アパートは海岸にあるから、ずっと波の音が聞こえたわ。 寒々しい生活だわね」 彼女はオレンジジュースの残りを飲んだ。 「つまらない話をしているみたいね」 僕は黙って首を振った。 六時を過ぎて、ラウンジはカクテル・アワーに入り、天井の照明が暗くなった。街には灯がと もりはじめていた。クレーンの先にも赤い灯がついた。淡い夕闇の中に細い針のような雨が降りつづいていた。』 村上春樹の文章はよくナルシストぽいと叩かれるとこともあるけれど、私は本当に好きなんですよ、こういった文章。 だから何度でも読みます。私の『羊をめぐる冒険』の文庫本はもうぼろぼろです。
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