ワイン一杯だけの真実
村上龍
幻冬舎
2001年08月
概要
複雑さと錯乱の快楽そのもののようなラ・ターシュ。セックス以外では癒せない夜に味わうシャトー・マルゴーの香り。非常に切なく非常に幸福な幼い時期を蘇らせたモンラッシェー。女たちが八本の宝石のような名酒からひき起こす怖いまでに美しい官能を、驚異的な筆致で描いた極めつけのワイン小説集。
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メモ
一行目: ハワイには文化がないんだよ、とあなたは言った。そして、それは悪いことじゃない、とそのあと付け加えた。ハワイには調和だけがあって対立や衝突がない。/要するにハワイはフラダンスとカヌーだけなんだけど、それはすばらしいことなんだよ。 一本目: オーパス・ワン 二本目: シャトー・マルゴー 三本目: ラ・ターシュ 四本目: ロス・ヴァスコス 五本目: チェレット・バローロ 六本目: シャトー・ディケム 七本目: モンラッシェ 八本目: トロッケンベーレンアウスレーゼ …
一行目: ハワイには文化がないんだよ、とあなたは言った。そして、それは悪いことじゃない、とそのあと付け加えた。ハワイには調和だけがあって対立や衝突がない。/要するにハワイはフラダンスとカヌーだけなんだけど、それはすばらしいことなんだよ。 一本目: オーパス・ワン 二本目: シャトー・マルゴー 三本目: ラ・ターシュ 四本目: ロス・ヴァスコス 五本目: チェレット・バローロ 六本目: シャトー・ディケム 七本目: モンラッシェ 八本目: トロッケンベーレンアウスレーゼ ○オーパス・ワン 13.アメリカ合衆国における最高の成果は、ハリウッド映画でも、ビートニクの詩でも、ジャズでも、ポップアートでもない。オーパス・ワンだ。それは本当の意味での旧大陸と新大陸の融合の象徴なんだから。 23.歴史というものは外部との関係の集積だ/ 24.人間も一つの歴史なのだから、その人が一生を通じてどういう他者と関係を作っていったかがその人の歴史となる ○シャトー・マルゴー 47.景色は完璧だったが、何かを拒否していた。景色が拒否していたのは、あらかじめ決められた親和性というようなものだったと思う。誰かと自分は親しいというような前提がその景色の中のどこにもなかったのだ。/ぼくと世界の間にある親しみを遮断していた。/簡単に言ってしまえば、それは感傷だ。 ○ラ・ターシュ 68.(恐怖と願望は対照的であると同時に相互作用する関係の場合がある。) 70.この世のほとんどの人は、ラ・ターシュのような、複雑さと錯乱が与えてくれる快楽を知らない。 ○チェレット・バローロ 100.「わたしは残酷になりたい。残酷なことをするのは強い人だと思う。」 104.「幸福でなくても生きていけるし、まだ二十年と少ししか生きていないけど、幸福より大切なものがあるような気がする」 105.「幸福の影には、と永井トモコら言った。その外側に裏切りや殺人が必要なのではないだろうか。/その外側で、生き延びるための戦いが行われていないと幸福は幻になってしまうのかも知れない……。」 111.「怒りがどこかで溶けてしまうのが家族であり親友なのだ。」 113.「永井トモコは、最近幸福というものがわかってきた、とベネチアングラスを指差し、微笑んだ。」 「バローロの香りに代わるものは、他では探すことができない。」 (バローロは薔薇の香りがするらしい。彼女たちが女性として持つ誇りの象徴なのだろうか。男たちの情けない様子が多く描写されており、そことのコントラストに自尊心を感じた。「誇り」と表現したが、実際には、他人(男)を見下し、「それに比べ私は高貴である」という悦に浸ることで幸福を感じているのではないだろうか。) ○シャトー・ディケム 119.「体罰は儀式化されていた。」 123.「あの男は下着の上から私の太腿や胸やお尻を触り、悲しいくらいに柔らかい、と言った。」 「若いのに尻の肉が柔らかい女というのは子供の頃に酷い目に遭っている女が多いんだ。」 「幼児や子供にとって親は世界全体に等しい。親からひどいことをされる子供の脳からはアドレナリンか、それと似たような作用の物質が分泌される。/心拍数は上がり、血管は膨張し、血糖値も上がる。戦う体勢も逃げる態勢も整うわけだが、子供は逃げることはできない。/もっと厄介なのは幼児や小さい子供の頃は親のことを嫌いにはなれないということだ。親から酷い目に遭った子供のからだの中ではアドレナリンが垂れ流しになっていて、やがて虐待が日常化してしまうと、慣れが起こってアドレナリンはもう分泌されなくなる。垂れ流しのあとでアドレナリンが分泌されなくなると、人間の活動は異常に低下する。反応が鈍くなり、血流が減り、無表情になる。そういう過程で尻や太腿の肉にも張りが失われていく。そういう人間はコミュニケーションが基本的に不可能になってしまう。他人と自分にあるのは不信感だけで、自分のことを好きになることがものすごくむずかしい。」 129.「ぼくは彼(あの男)のやり方みたいなもの(心に傷を負った人との関わり方)が分かるが、それは関係性に関与しないことだと思う。人間は他人に対して何もできないということだ。」 「ぼくと彼との違いがただひとつだけあって、それはぼくが関係性に関与したいと思っていることなんだ。君自身や君のトラウマに対して何かできるとは思っていない。だが、君とぼくの関係については別じゃないかと思うんだ。/ぼくと一緒にいるときに君が苦痛ではない、楽にしていられる、ということはこれから可能になるかもしれない。関係性に関与するというのはそういう意味だ。」 129.「トラウマというものはそれから逃れられるものじゃない。立ち向かうものでもない。だが、トラウマから自由になろうと努力することはできる。」 135.「飢えは、決して充たされることはない」 ○モンラッシェ 151.「我々は敵が多いから君のような暗い目をした女を好む/暗い目をした女は、敵を殺すことができるし、敵を憎むことを止めない。たとえ殺されても敵に寝返るようなことがない。/明るい目をした女は信用できない。誰にでも笑いかけ誰にでも話しかける。そういう女は男に殴り殺されることもある。」 ○トロッケンベーレンアウスレーゼ 161.「幼い頃死にそうになった生物は、性格が用心深くなるらしい。わたしの犬はわたし以外の人間を信用していない。」 163.「誰もが複数の人生を送りたがっているように思える。やり直したいというわけではなく、目の前の現実だけでは自分に確信が持てないのだ。」 174.「あのワインを飲むことで人生が充実するわけでもない。ただ、わたしは絶対的なものに接触してしまった。」 178.「おれ達は死の世界を知らない。だから死に甘美なものを想像する。このワインはそういう味だ。死の世界の味がする。」 ○あとがき 179.ワインを飲んで風景が異化してしまうことがある。香りを嗅ぎ、試飲した瞬間、どこか別の場所に運ばれていくような錯覚に陥るときがある。官能的な錯覚だ。 1996年9月28日 ペルージャ 村上龍 メモ 難解すぎる。文章の端々に優艶さを感じるものの、自身の読解力の低さか、ワインへの知識不足か、時代背景のギャップの大きさからか、今の私(2025)には十分理解できなかった。 後半に行くにつれて、頭がこの文章にチューニングされたのか、面白いと感じてしまった。 ロス・ヴァスコスのお話が好きだった。夢の狭間にいるような、ある種エヴァっぽさのあるお話。私もドーパミン中毒のようなものかもしれない。意外性のある作品はやはりワクワクしてしまう。
ひろきさんの感想・評価
これが本物の官能小説。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 難解すぎる。文章の端々に優艶さを感じるものの、自身の読解力の低さか、ワインへの知識不足か、時代背景のギャップの大きさからか、今の私(2025)には十分理解できなかった。 後半に行くにつれて、頭がこの文章にチューニングされたのか、面白いと感じてしまった。 ロス・ヴァスコスのお話が好きだった。夢の狭間にいるような、ある種エヴァっぽさのあるお話。私もドーパミン中毒のようなものかもしれない。意外性のある作品はやはりワクワクしてしまう。 バローロの人間性の筆致が好きだったし、シャトー・ディケムは最近そんな女性に出会ったので人事ではなかった。
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