【サイン本】流浪の月
凪良 ゆう
東京創元社
2019年08月下旬
概要
あなたと共にいることを、世界中の誰もが反対し、批判するはずだ。わたしを心配するからこそ、誰もがわたしの話に耳を傾けないだろう。それでも文、わたしはあなたのそばにいたいーー。再会すべきではなかったかもしれない男女がもう一度出会ったとき、運命は周囲の人間を巻き込みながら疾走を始める。新しい人間関係への旅立ちを描き、実力派作家が遺憾なく本領を発揮した、息をのむ傑作小説。
ステータス
読んだ
メモ
24.小さな不快が積もり、伯母さん宅の居心地が悪くなっていくにつれ、わたしは態度を改めざるを得なくなった。わたしの常識は伯母さんの家の非常識である。孤立無援の環境で、たったひとりで旗を振り続けられるほど、わたしは強くなかった。 わたしは常識のある子供のふりをしはじめた。 25.この世をやんわりと統治しているルールについて考える。/意味もわからず、わたしはルールに従いはじめている。無限に続いていく日々から、少しでも痛み取り除くために。 26,涙がにじんできて、慌てて本を開い…
24.小さな不快が積もり、伯母さん宅の居心地が悪くなっていくにつれ、わたしは態度を改めざるを得なくなった。わたしの常識は伯母さんの家の非常識である。孤立無援の環境で、たったひとりで旗を振り続けられるほど、わたしは強くなかった。 わたしは常識のある子供のふりをしはじめた。 25.この世をやんわりと統治しているルールについて考える。/意味もわからず、わたしはルールに従いはじめている。無限に続いていく日々から、少しでも痛み取り除くために。 26,涙がにじんできて、慌てて本を開いた。昔は楽しかったなんて思っちゃいけない。だって今が不幸みたいじゃないか。 70他人を痛めつけるくせに、自分の痛みにはてんで弱い。 85.やっぱりあれは異常なことだったのか。自分を守るため、私の頭や心が都合よく脚色した記憶なのか。だんだんと自分自身のことすら信じられなくなり、いつしか私は他の記憶装置を覗くようになった。ソファに座り、ノートパソコンを開いた。 97.相手に好かれたいとさえ願わなければ、人間関係に憂いはほとんど生まれない。 124.わたしを知らない人が、わたしの心を勝手に分析し、当て推量をする。そうして当のわたし自信がわたしを疑いだし、少しずつ自分が何者なのかわからなくなっていった。 /それでも正しいのはわたしだと世界に挑めるほど、わたしは強くない。わたしは賢くない。だからもうひとりの当事者である文に縋ってしまう。わたしは間違ってないよねと問いたくなる。 139.泉ちゃんから聞いた話とずいぶん印象が違う。どちらが本当なんだろう。でも多分、時事なんてない。出来事にはそれぞれの解釈があるだけだ、泉ちゃんには泉ちゃんの、亮くんに亮くんの。わたしも同じだ。わたしが知っている文と、世間が知っている文は全然ちがう。 140.世の中に『本物の愛』なんてどれくらいある? よく似ていて、でも少し違うものの方が多いんじゃない? みんなうっすら気づいていて、でもこれは本物じゃないからと捨てたりしない。本物なんてそう世の中に転がっていない。だから自分が手にしたものを愛と定めて、そこに殉じようと心を決める。それが結婚かもしれない。 177.まがいもの。愛とよく似ているけれど、愛ではない。亮くんら自分の空洞を満たしてくれる誰かを欲しているだけだ。わたしも似たようなもので、それが今夜露わになった。 209.切れてはいないけど、たんこぶができている。軽く押すとずきんと痛んだ。今度はもう少し強く押してみる。もっと痛い。どうして痛みを確認したいのだろう。かさぶたを剥きたい欲望に似ている。 (生への渇望?生を実感したい?この場面だけで考えると、別れへの実感を深める行為のような。何にせよ、“痛み”は刺激が強い分、記憶にも強く作用する。) (科学的な理由を言うなら、「身体の違和感を確認せずにはいられない」からだろう。かさぶたをの場合、かゆみ、ストレス、完璧主義(正常な表面の状態に戻したい)、不安と言ったものが影響するようだ。) 225.ひとりのほうがずっと楽に生きられる。それでも、やっぱりひとりは怖い。 285.少しでも楽になりたくて、自分を騙し続けることに全力を傾け、皮肉にもそのせいで、ぼくはさらなる混乱の極みに落ちていく。 〈追加メモ〉 32.例外は孝弘だけだ。あいつはさんやくんをつける価値がない。心の中で呼び捨てにして、現実ではあいつに呼びかけたことすらない。 (“イヤな相手”の名前を呼びたがらないのは、この歳特有のものだろうか。私も、名前を呼んではいけないあの人、ばりに名前を口にしなかったことがある。名前はその人の存在をありありと脳に刻むからだろうか。自分がイヤなはずのその相手を想起することを脳が拒むからだろうか。 裏返して言えば、“名前”にはそれほどの価値があるようだ。存在していても名前を持たないそれは概念に過ぎない。“名前”がその概念を形づくり、意識に定着させていくのだと思う。)
ひろきさんの感想・評価
事実と真実は違う。 真実を理解できるのは、彼と彼女だけなのに。 人は知らないを怖がるから、情報に縋る。 知っているふりをして、わたしはこの世界とつながっていると自身を慰める。 真実を知る必要なんてないのかもしれない。そもそも真実に目を向ける余裕がないのだろう。知ったところで、マジョリティは変わらない。彼と彼女が知っていれば十分なのだ。外野は黙っていればいい。そういう意味では“多様性”という言葉に嫌気がさす。もうそっとしておいてくれ。認めてくれるなら結構。私たちは知っている。もう蒸し返さないでくれ。 “優しさ”という毒は、じくじくと心を侵していく。その“優しさ”は本当に優しさなのだろうか。自身の穴を埋めるための優しさではなかろうか。
この本を読んだ人の感想
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コメント
映画版も視聴してきた。 「2ヶ月の幸福」と「15年の絶望」の落差というか明暗がはっきりし過ぎていて、余計に胸を締められた。 小説と映画、どちらもそれぞれの良さがあるが、描写の丁寧さは小説ならではのもの。本が読めて幸せです。