羊をめぐる冒険(下)
村上 春樹
講談社
2004年11月15日頃
概要
青春3部作完結編 1982年秋 僕たちの旅は終わる すべてを失った僕のラスト・アドベンチャー 美しい耳の彼女と共に、星形の斑紋を背中に持っているという1頭の羊と<鼠>の行方を追って、北海道奥地の牧場にたどりついた僕を、恐ろしい事実が待ち受けていた。1982年秋、僕たちの旅は終わる。すべてを失った僕の、ラスト・アドベンチャー。村上春樹の青春3部作完結編。野間文芸新人賞受賞作。 第七章 いるかホテルの冒険 第八章 羊をめぐる冒険III エピローグ
ステータス
読んだ
薄雪さんの感想・評価
主人公と耳の美しいガールフレンドは、札幌で羊に関する情報を集めているうちに、自分たちが滞在していたイルカホテルで、かつて満州で羊の研究をしていた羊博士と出会います。老人は、満州国の時代に特別な羊に取り憑かれ、その羊とともに日本へ渡ってきたと語ります。そして、その羊は例の先生の体に移ってしまったのだと言います。先生はその後、強い影響力を持つ人物になりましたが、やがて羊は羊博士の体を離れました。そのため羊博士は「羊抜け」という症状に苦しんでいるのだと語ります。 老人から羊が写る写真の場所を教えられた二人は、星形の斑点を持つ羊を追って北海道の十二滝町へ向かいます。主人公は列車の中で十二滝町に関する書物を読み、町をつくった人々を導いたアイヌの青年「月の満ち欠け」の存在を知ります。十二滝町は、すでに衰えかけた寂しい街でした。そこで二人は羊の管理人と出会い、山中の山荘へ連れて行ってもらいます。 その山荘は、かつて羊博士が暮らし、戦後は鼠の父が所有していた建物でした。二人は山荘に滞在しますが、耳の美しいガールフレンドは到着して間もなく姿を消してしまいます。 山荘に残った主人公は、羊男という奇妙な存在と出会います。羊男は主人公にいくつかの助言を与えます。 その後、主人公は山荘で友人の鼠の魂と出会います。鼠がこの山荘に来ていたこと、そして鼠がすでに死んでいることがわかります。鼠は、自分の体に羊が入り込んでいたこと、そして自分はその羊を抱えたまま死んだのだと主人公に伝えます。 主人公は山荘を離れます。帰り道で先生の秘書と出会い、会話をします。主人公は秘書から小切手を受け取ります。秘書は山荘へ向かいます。主人公が帰りの列車に乗っているとき、山荘の方から爆発の音が聞こえます。 主人公は街へ戻ります。ジェイズ・バーに行き、小切手を預け、「共同経営者にしてくれ」と頼みます。そして川に沿って残された五十メートルほどの砂浜に腰を下ろし、二時間泣き続けます。 ⸻ 村上春樹の『風の歌を聴け』、『1973年のピンボール』、『羊をめぐる冒険』は、それぞれ喪失の物語だと思います。 『風の歌を聴け』で失われるのは、1970年の夏という「一度しかない時間」、鼠との共有された青春、指のない女の子との関係、そしてさまざまな可能性です。淡い青春との別離の物語だと感じます。 『1973年のピンボール』では、主人公は失われたピンボール台を探します。しかし本当に探しているのは、「あのとき何かに夢中だった自分」、あるいは「必死に逃げていた自分」、つまり過去の自分自身の実感なのだと思います。そこには、失われたものへの追憶と、どこか安らぎのようなものがありました。 『羊をめぐる冒険』での喪失は、本当に厳しいものです。羊に象徴されるもの――社会や権力、あるいは曖昧さを許してくれない硬く厳しい何か――と、鼠と主人公は戦っているように感じられます。それでも鼠は、自分自身であろうとしました。主人公も同じです。 「俺は俺の弱さが好きなんだよ。苦しさやつらさも好きだ。夏の光や風の匂いや蝉の声や、そんなものが好きなんだ。どうしようもなく好きなんだ。君と飲むビールや……」 鼠は羊と戦い、壮絶な死を遂げます。主人公は生き延びました。しかしその代償として、これまで築いてきた仕事、かけがえのない親友、そして恋人を失います。主人公が失ったものは、追憶できるようなノスタルジックなものではないように感じられます。帰るべき人間関係、そして自分自身までも失ってしまったかのようです。 浜辺で泣いたあと、どこへ行けばいいのか主人公にはわかりませんでした。日はすっかり暮れていて、そんなに泣いたのは初めてのことでした。歩き始めると、背中に小さな波の音が聞こえます。 物語の最後に描かれるのは、途方に暮れた主人公の姿です。とても悲しいラストシーンです。『羊をめぐる冒険』は、居場所を失った人の物語だと思います。だからこそ読んでいてとても悲しく、同時に何度でも共感してしまうのかもしれません。 主人公が立ち直り、再び居場所を見つけていくことになるのは、次の物語『ダンス・ダンス・ダンス』です。この作品を読まれた方が、次の物語にも興味を持ってくださることを願っています。 繰り返すたびに深くなっていく喪失と再生の物語。それが、この四部作の魅力なのではないでしょうか。
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