薄雪グラスホッパー
グラスホッパー

グラスホッパー

伊坂 幸太郎

KADOKAWA

2007年06月

概要

『マリアビートル』『AX アックス』に連なる<殺し屋シリーズ>の原点! 「復讐を横取りされた。嘘?」元教師の鈴木は、妻を殺した男が車に轢かれる瞬間を目撃する。 どうやら「押し屋」と呼ばれる殺し屋の仕業らしい。 鈴木は正体を探るため、彼の後を追う。 一方、自殺専門の殺し屋「鯨」、ナイフ使いの天才「蝉」も「押し屋」を追い始める。 それぞれの思惑のもとに──。 「鈴木」「鯨」「蝉」、三人の思いが交錯するとき、物語は唸りをあげて動き出す。 疾走感溢れる筆致で綴られた、分類不能の「殺し屋」小説!

ステータス

読んだ

メモ

2年前に妻を轢き逃げされた中学校教師の鈴木は、犯人が違法薬物を売る悪徳会社「フロイライン」の社長・寺原の長男だと知ります。復讐のため「フロイライン」に入社し、機会を伺う鈴木でしたが、裏社会の人間らしくない風体のため正体を疑われており、上司の比与子より、会社への忠誠を示すために捕まえた無関係の若いカップルを殺すよう命じられます。その様子を確認するため寺原長男もやって来ますが、鈴木と比与子の目の前で道路を横断しようとした彼は車に轢かれてしまいます。その光景は不自然であり、それは「…

2年前に妻を轢き逃げされた中学校教師の鈴木は、犯人が違法薬物を売る悪徳会社「フロイライン」の社長・寺原の長男だと知ります。復讐のため「フロイライン」に入社し、機会を伺う鈴木でしたが、裏社会の人間らしくない風体のため正体を疑われており、上司の比与子より、会社への忠誠を示すために捕まえた無関係の若いカップルを殺すよう命じられます。その様子を確認するため寺原長男もやって来ますが、鈴木と比与子の目の前で道路を横断しようとした彼は車に轢かれてしまいます。その光景は不自然であり、それは「押し屋」と呼ばれる、業界でも有名かつ正体不明な殺し屋の仕業でした。 比与子に押し屋の行方を追うよう命令された鈴木は、槿(あさがお)という男を見つけます。槿はシステムエンジニアを名乗り、その妻すみれや息子の健太郎、孝次郎と暮らしています。鈴木は槿が本当に押し屋なのか正体を探るため、彼の息子の家庭教師として一家に近づきます。槿は鈴木を怪しみつつも、徐々に鈴木は槿一家と打ち解けていきます。 一方、催眠のような特殊な力で相対した相手を自殺させることができる殺し屋の鯨(くじら)は、今まで自分が殺してきた者たちの幻覚に悩まされていました。元カウンセラーと名乗るホームレス仲間の田中から、やり残したことを清算すれば悩みから解放されるという助言をもらった鯨は、仕事を先取りされたことで心残りがあった押し屋を殺すことを決めます。また、鯨は自分に裏切られるという被害妄想に陥った臆病な依頼人・梶が、自分の暗殺を何者かに依頼したことを知り、彼を自殺に見せかけて殺します。 殺し屋を斡旋する岩西の部下で、ナイフ使いの殺し屋の青年・蝉(せみ)に、鯨の暗殺依頼が届きます。ガブリエル・カッソ(注:架空の映画監督)の映画『抑圧』の主人公に自分を重ね、岩西に支配されている現状を悲観している蝉は、依頼人の梶に会いに行きますが、彼はすでに自殺していました。それを自分のせいだと考え、岩西への報告に悩んでいたところ、知り合いの情報通の桃(もも)より、「フロイライン」の社員(鈴木のこと)が押し屋を見つけたという話を聞きます。そこで蝉は、押し屋を殺すことで岩西から独立しようとします。 鈴木は比与子に喫茶店に呼び出され、彼女から押し屋の進捗状況を尋ねられます。鈴木は彼女に警戒しながら槿のことは黙っていようとします。しかし店内の人間は全員「劇団」と呼ばれるフリーの組織の協力者たちで、巧妙に睡眠薬を盛られ、鈴木は拉致されてしまいます。一方、押し屋の正体を知るため鈴木の行方を探していた蝉は、彼が拉致されたことを知らされ、鈴木が運ばれた廃ビルに向かいます。 岩西の事務所にやって来た鯨は、彼をその能力で自殺させようとします。能力が掛かり意識が朦朧となった岩西は、蝉に期待していることや、そのために鯨に蝉と対決してほしいと頼みます。また偶然、蝉から岩西への電話が掛かり、岩西は蝉に「がんばれ」と声をかけて電話を切ると、鯨に蝉が押し屋の行方を知っている男(鈴木)の行方を追って寺原が所有する廃ビルに向かったことなどを教え、飛び降り自殺します。 寺原の廃ビルに潜入した蝉は、鈴木を拷問しようとしていた男たちを殺害し、彼を助け出します。蝉から押し屋を殺そうとしていることを伝えられた鈴木は、彼には家族がいるからやめるよう説得しようとしますが、蝉は一家ごと殺すことには慣れていると言って取り合いません。そのまま鈴木は蝉の車に乗せられ拘束されます(また蝉に結婚指輪を盗まれます)が、実は後部座席に鯨が潜んでおり、運転席の蝉を後ろから羽交い締めにします。鯨は蝉を車外に引きずり出し、雑木林の奥へ向かいます。 車内に取り残された鈴木でしたが、槿に助け出され、彼の運転で彼の家に向かうことになります。鈴木は彼が押し屋であることを確信しますが、槿ははぐらかします。鈴木は槿一家を助けるため逃げるように言いますが、これも槿は取り合いません。さらに槿の息子がこっそり鈴木の携帯電話を盗み、比与子に住所を送ってしまったことを知り、鈴木は焦ります。 蝉と対峙した鯨は、突然の幻覚で危機に陥りますが、岩西から奪った拳銃で蝉を射殺して危機を脱します。鈴木の行方を探そうとするとビルから出てきた比与子を見つけ、半ば強引に彼女から押し屋と目される槿の自宅住所を聞き出します。彼女とその場所に向かった鯨でしたが、そこはただのシール工場でした。 槿の自宅に着いた鈴木はそこで、彼が押し屋であること、槿一家が偽の家族で、妻や息子らも「劇団」の一員であることを教えられます。実は「劇団」は「フロイライン」と揉めており、そのため押し屋に寺原親子の殺害を依頼し、さらに押し屋に全面協力していました。寺原は強敵のため、今回は押し屋も手の込んだ計画を練り、そこにたまたま鈴木が巻き込まれたという話でした。さらに別件で寺原が殺された情報が届きます。鈴木は一家に別れを告げますが、亡き妻との思い出のある結婚指輪を亡くしたことに気づき、これを探すため槿に雑木林まで送ってもらいます。 手掛かりを失った鯨でしたが、蝉の亡霊が、鈴木は指輪を探して林に戻ってくると囁きます。実際に鯨は蝉の死体のそばで指輪を見つけ、さらに道路の向こうに鈴木と思われる男がいることに気づきます。一方の鈴木は指輪が見つからず、諦めて道路に出てきたところでした。道の向こう側に鯨の姿を確認し、途端に鈴木は死にたくなり道路に飛び出そうとしますが、亡き妻の声が聞こえ踏みとどまります。その瞬間、道に飛び出した鯨が車に轢かれる光景を目にし(槿に押されたことが示唆されます)、鈴木は睡魔に襲われて意識を失います。 鈴木は品川駅の構内で目を覚まし、状況が分からないまま慎重に行動します。社長の寺原が亡くなって「フロイライン」が自動消滅したことや、比与子と思われる女性が地下鉄で飛び込み自殺したことを知ります。鈴木は生計のため、臨時の塾講師の職を得ます。妻との記憶を整理するため、鈴木は広島に行きます。帰りに東京駅で健太郎と孝次郎(という設定だった劇団の子どもたち)に会い、彼らの元気な姿に安堵します。二人の姿は、回送電車の通過に遮られます。

薄雪さんの感想・評価

2年前に妻を轢き逃げされた中学校教師の鈴木は、犯人が違法薬物を売る悪徳会社「フロイライン」の社長・寺原の長男だと知ります。鈴木は、復讐のため「フロイライン」に入社し、機会を伺っていました。人寺原長男もやって来ますが鈴木と比与子の目の前で道路を横断しようとした彼は車に轢かれてしまいます。その光景は不自然であり、それは「押し屋」と呼ばれる、業界でも有名かつ正体不明な殺し屋の仕業でした。 押し屋の行方を追うようにフロイラインの社員に命令された鈴木は、押し屋を追っていきます。 一方、催眠のような特殊な力で相対した相手を自殺させることができる殺し屋の鯨(くじら)、ナイフ使いの殺し屋の青年・蝉(せみ)もそれぞれの事情から押し屋を追っていきます。 すごいスピード感のある小説です。 押し屋による事故、偶然の出会い、幻覚、多数の人間の錯綜する目論見など、物語は主人公、登場人物の制御不可能な感じで広がっていきます。善悪すらよくわかりません。作中に出てくるグラスホッパーはバッタを意味しています。主に 「大きな流れに押されて白にも黒にもなる小さな存在」 といった象徴でしょうか。 そんな中で主人公の鈴木だけが日常に戻ることができます。亡き妻との会話の中で、「生きているように生きる」という決意を固めます。しかし、そんな鈴木の思いも、最後の回送電車によって少し煙に巻かれたようになっていきます。 最後の最後まで、まるで彷徨っているような気分にさせる小説でした。

この本を読んだ人の感想

「グラスホッパー」の感想・レビューをもっと見る

ショップ

Amazon楽天
薄雪

あなたの感想も、読書仲間へ

ブックミーで読んだ本を記録して、感想を共有できます。

薄雪のコンテンツをアプリでチェックしましょう