はる真夏の死改版
真夏の死改版

真夏の死改版

三島由紀夫

新潮社

2010年11月

概要

著者自選による第二短編集。伊豆今井浜で実際に起った水死事故を下敷きに、苛酷な宿命とそれを克服した後にやってくる虚しさの意味を作品化した『真夏の死』をはじめ、文壇へのデビュー作ともいうべき『煙草』、レスビアニズム小説の先駆的な作品『春子』、戦後の少年少女の風俗に取材した作品等、短編小説の方法論と技術的実験に充ちた11編を、著者自身の解説を付して収める。

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はるさんの感想・評価

「煙草」 禁止された煙草を吸ったり、花を眺めることを恥ずかしく思ったりなど大人に近づくことへの恐怖や憧れが美しい情景とともに書かれている。全てのものが眩く光る少年時代の中で特にギラギラと強い光を放つ、煙草をくれた伊村に抱く気持ちは憧れか、恋心か。不安定で美しい青春時代が書かれた話。 三島由紀夫が、少年時代は悲劇ではなくうつくしいものと言い切っていることがなぜだかうれしく思えた。 「春子」 叔母の春子の艶かしさがしつこいばかりに書かれている。母の着物を身に纏って夜這いしてくる叔母など気持ちが悪いと思ってしまうが、叔母の危うげな魅力に引き込まれてしまう。体の関係を「唇に味がする」と比喩されているのが個人的にとても好きだった。 読んでいると、春子と路子の様子を薄いカーテン越しに見ている様な気分になる。 題名頁に書かれている、グリルパルツァーの「サフォー」はキスの格言と呼ばれているらしい。 「サーカス」 愛をサーカスの見せ物として弄ぶ男たちの話。惨たらしい話だが美しい文章で書かれていて夢中になって読んでいたのがなんだか悔しい。 特にサーカス小屋をプラネタリウムを連想させる様に、夜空や星座を用いて表現していたのがよかった。サーカスに夢中になって魅入っている観客の熱気と、その様子を冷ややかな目で見る男たちのコントラストがいい。 「翼」 解説を何も読んでいないので私の解釈が合っているのかどうかは分からないが、文中で書かれている“翼”は登場人物の“プライド”を具現化したものだと考えた。 ↓以下ネタバレ 葉子が死んだのは、1人だけ防空壕に入り遅れたから。ではなぜ遅れたのか。文中では葉子の肌の白さや身につけているセーラー服の清潔さが強調して書かれている。葉子は、暗くてお世辞にも綺麗とは言えない防空壕に入るのを躊躇ったのではないだろうか。己の翼(プライド)のせいで。 話の最後に杉男に対する苦言が書かれているが、それも翼をプライドに置き換えて読むと納得がいく。 高すぎるプライドはいずれ身を滅ぼすことを三島由紀夫は伝えたかったのだろうか?...それとも高すぎるプライドの持ち主は三島由紀夫自身だったのか?... 「離宮の松」 清々しく、はつらつとしていてすごくいい。背中におもりがあったらだれも遠くまで行けないものである。 「真夏の死」 我が子を失った朝子、勝の夫婦の話。全体を通して、蒸し暑い夏の匂いが立ち込めていて息苦しさを感じる。朝子は子を失った悲しみを忘れらずにいるというよりかは忘れることを恐れている様に感じられた。勝は話全体を通してどこか他人事の様に感じられた。勝は自分を語る際に、第三者視点で語っているのが印象的だった。一方朝子は感情的で主観的。2人の視点が交互に書かれている。題名とともに書かれていたボオドレエルの人工楽園は客観と主観の一体化の経験について書かれているらしい。何か関係があるのだろうか? 話を通して人間は限りなく悲劇を求めてしまうのだなと思った。最後に朝子が、子を失った海に行きたがったのはそのせいなのだろうか。人は不幸なことがあるとそれと同等の幸せを求めてしまう。逆も然り。永久に幸せを追い求めるとともに、不幸も追い求めてしまうものだとしたら人間はなんだか悲しい生き物の様な気がした。

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