空色勾玉 〈新装版〉
荻原規子
徳間書店
2024年11月08日
概要
佐竹美保装画・口絵による新装版! 〈輝〉の大御神の双子の御子と、 〈闇〉の氏族とが激しく争う戦乱の世。 〈輝〉の御子に憧れる十五歳の村娘狭也は、 訪れた〈闇〉の氏族に、 空色の勾玉を手渡される。 それは、鎮めの玉、 狭也が〈闇〉の巫女姫であるしるし……。 自分の運命を受け入れられず、 〈輝の宮〉に身を寄せた狭也を待っていたのは、 深い絶望と、不思議な出会いだった。 宮の奥深くに縛められていた少年稚羽矢は、 すべてのものを滅ぼすという 〈大蛇の剣〉の主だったのだ……。 神々が地上を歩いていた古代の日本を舞台に、 絢爛豪華に織りあげられた、 日本のファンタジーの金字塔! 解説・中沢新一
ステータス
読んだ
メモ
2025/1/2読了
にねさんの感想・評価
中学生のときに読んでだいすきだった〈勾玉〉シリーズの第一作『空色勾玉』。 このたび文庫で〈新装版〉が発売されるということで購入、再読しました。 この〈新装版〉は、佐竹美保さんによるノベルズ版の表紙、カラー口絵、各章の扉絵を文庫に移行したもの。 私が〈勾玉〉シリーズに興味をもったのも、佐竹さんの美麗なイラストの影響は大きかったと思います。 とりわけ『空色勾玉』の表紙は格別にすきで、水面を思わせる青、細かく描き込まれた衣装の紋様……ほとんど一目惚れ同然で、購入を決めたことを憶えています。 本作にはたくさんの魅力が詰まっていますが、私はそのひとつに、日本語の美しさ、を挙げたいと思います。 文章の美しさ、とはまたちがう、言葉としての美しさを、この物語はうったえかけてくるのです。 たとえば〈輝〉と書いて〈かぐ〉、〈闇〉と書いて〈くら〉。 現代日本語においては馴染みのない読みかたかもしれません。 しかし、そもそも闇とはくらいものだし、光りかがやく女の子の例として『竹取物語』のかぐや姫を思い出してみれば、輝を〈かぐ〉と読むことも、多くの人はしぜんと受け入れられるのではないでしょうか。 狭也〈さや〉、稚羽矢〈ちはや〉に代表される登場人物の名前についても、現代に通用する音の響きでありながら、いにしえの趣がある漢字づかいに、私は感動しました。 (ちはやに稚羽矢の字を当てるセンス、神がかってませんか?!) ほかにも、照日王〈てるひのおおきみ〉・月代王〈つきしろのおおきみ〉という双子の姉弟御子や、彼ら輝の一族がもつ不死のちからを〈変若〉と書いて〈おち〉と読ませるなどなど、、、 挙げていくときりがないですが、やっぱり外せないのは〈水の乙女〉という言葉の美しさでしょう。 水とは、静かに流れていくあいだは美しいものですが、ときに急流は激しく、奔放で、力強さがあります。 作中で、決意を示した狭也に対し、稚羽矢が「水の乙女だ」とつぶやく場面、私は屈指の名シーンだと思います。 本作のテーマは「罪をゆるすこと/ゆるされること」がそのひとつにあります。 作者の荻原規子は登場人物について、大祓祝詞に登場する罪や穢れを川に流してさすらう神様をモチーフにしたと語っています。 「水に流す」と慣用句にもあるように、水とは美しく、激しくもありながら、罪を流して去っていくもの、赦しの象徴でもあるのです。 物語は戦乱の世、輝の氏族と闇の氏族は対立し、戦闘を繰り返しています。 そもそも輝は不死の者、闇はよみがえりの氏族であり、価値観がことなるので分かりあうのはむずかしく、そこに人を殺し殺され、血を流した歴史が積み重なっているのです。 主人公の狭也は輝の一族に憧れながらも、闇の氏族の出自ゆえにいくさに巻き込まれていきます。 今この現実に立ち返ってみても、戦争はなくならず、人は奪い合い、憎み合いながら生きています。 罪をゆるし、怒りをとくことは、そう簡単なことではありません。 でも、たとえ綺麗事であっても、未来を生きる子どもたちが殺伐とした世の中を生きることがないように、今を生きる私たちは考えつづけなければならないのだと思います。 こうした物語が、考えつづける私たちの助けになればいいと願いを込めて。
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