にねみずもかえでも
みずもかえでも

みずもかえでも

関 かおる

KADOKAWA

2024年09月28日頃

概要

第15回 小説 野性時代 新人賞 受賞作! 落語好きの父に連れられ寄席に通うなか「演芸写真家」という仕事を知った宮本繭生は、真嶋光一に弟子入りを願い出る。「遅刻をしないこと」「演者に許可なく写真を撮らないこと」を条件に許可されるが、ある日、繭生は高まる衝動を抑えきれず、落語家・楓家みず帆の高座中にシャッターを切ってしまう。繭生は約束を破ったことを隠したまま演芸写真家の道を諦める。それから4年、ウェディングフォトスタジオに勤務する繭生のもとに現れたのは、あのみず帆だった……。

ステータス

読んだ

メモ

2025/1/3読了

にねさんの感想・評価

「すき」という気持ちだけでごはんを食べていくことは、相当にむずかしい。 失敗も、挫折もある。 でも、「すき」だからこその情熱が、大きなちからになることも、きっとある。 そう思わせてくれる、かなえたい夢があるすべてのひとにおすすめのお仕事小説です。 かつて演芸写真家を目指していた主人公・宮本繭生。 今はウェディングフォトスタジオで働いていますが、彼女には師匠との約束を破って高座中の落語家の写真を撮ってしまい、一度その道を諦めたという過去がありました。 このあたり、かいつまんで説明すると「なんか大げさだな???」と思うかたもいるかもしれません。 普通の会社員だと仕事の覚えかたも「習うより慣れろ」的なところがあり、失敗してなんぼ、数打ちゃ当たる、上達するには回数こなしましょう、のマインドじゃないですか(そうでないところもあるのでしょうが)。 ところが演芸の世界は、そう甘くはないようです。 師匠である真嶋にこんなセリフがあります。 「まずは、自分の存在を、芸人さんに知ってもらって、カメラがあることに慣れてもらわないといけない。慣れっていうのは、信頼だから」 そして、信頼のないままシャッターを切ってはいけない、と繭生に切々と説くのです。 こういう、未知の世界を端的にあらわしてくれる会話だったり描写だったりが、小説の醍醐味だよなあとわくわくします。 繭生と真嶋、ふたりで積み重ねてきた時間があって、それを踏まえたうえで繭生のやらかしてしまったことの重みを思うと、うう、読んでいる側もしんどい気持ちになってしまう……。 そんな繭生がもう一度演芸写真に向き合うまでを描いている本作。 メインの登場人物は繭生、女性落語家として活動中の楓家みず帆のふたりですが、真嶋、繭生の父親、繭生と同じフォトスタジオで働く後輩アルバイトの小峯らが、物語に彩りと深みを与えてくれます。 繭生を純粋に応援する父親の姿には思わず涙がでたし、写真のセンスはあるけれど物覚えが壊滅的にわるい小峯くんは、最後まで憎めないキャラクターでした。 小峯くんのようなひとについては私も思うところがあって、(真面目にやろうとしている、という前提のうえで)仕事ができないひとに寛容になれない社会は、私はいやだと思っていて、けれどその皺寄せがいくのは同じ職場にいるひとであり、不満をもつのは当然のことだよな、と。 仕事ができなくて孤立していくひとに、私がしてあげられたこと、きっとあったんだろうと思うけれど、今ふりかえってみても当時の私にそんな余裕もなく……みたいな感じ。 共存ってむずかしいね。でも、目を逸らしちゃいけないことだとも思います。 長々と書きましたが、とにかく、かなえたい夢があったひと、今も夢を追いつづけているひと、夢とかたいそうなものじゃなくても「すき」という気持ちがわかるひと、きっと共感しまくりの素敵な読書体験ができると保証します! あなたに届け、という願いを込めて。

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