本の感想・レビュー
腹を割ったら血が出るだけさ

腹を割ったら血が出るだけさの感想・レビュー

住野よる

双葉社

ISBN: 9784575528602

読者の感想・読書記録

ブックミーに投稿された公開の読書記録です。感想はそれぞれの読者の意見です。

薄雪さん

住野よるさんの『腹を割ったら血が出るだけさ』です。 綺麗な表紙に釣られて買ってしまいました。 主人公の女子高生糸林茜寧は、優しい家族、多くの友人、優しい恋人に囲まれ、一見すると充実した毎日を送っています。しかし、「誰からも愛されたい」「嫌われたくない」という一心から、常に相手の望む「理想の自分」を徹底的に演じ続けている姿でした。 心の中で常に「死にたい」と愚痴り、自身の腹黒さや計算高さを自覚している茜寧は、偽りの自分を演じ続ける日々に息苦しさを感じています。そんな彼女にとって唯一の心の救いは、『少女のマーチ』という一冊の小説でした。その小説には激しい共感を抱いています。 ある日、茜寧は街中で、『少女のマーチ』に出てくる登場人物〈あい〉と全く同じ容姿・服装・足音を持った人物とすれ違います。驚いて声をかけると、その人物宇川逢は自分の名前も「あい」だと言いました。 逢は、ライブハウスで働く成人男性であり、非常に端正な顔立ちをしており、常に女装をしています。茜寧たちとは対照的に、「裏表を持たず、自分の感情やありのままをストレートに表現できる人間です。 茜寧は、逢に出会ったことで。もし自分がこの小説の主人公のように行動していけば、いつか自分も物語のように救われるのではないかと考えるようになります。彼女は自分の本心を隠したまま、純粋で真っ直ぐな逢と「友人」になり、彼との時間を重ねていきます。 しかし、表裏のない逢は、屈折した他人の内面を汲み取ることが極めて苦手でした。彼は良かれと思って真っ直ぐな言葉を投げかけますが、本音を隠して立ち回る茜寧にとっては、その純粋さが辛い時もありました。 そんな茜寧を上村竜彬という茜寧の幼馴染の少年は見つめています。ひねくれた性格で、他人の失敗や醜い部分を暴くことに執着しています。茜寧が周囲に合わせるために見せる「嘘」を冷ややかに見つめています。 一方、後藤樹理亜という人物に、逢といったアイドルのイベントで茜寧は会います。 樹里亜は人気アイドルグループ「インパチェンス」のメンバーです。彼女もまた、自分が作り上げた「アイドルとしての完璧なストーリー(偽りの自分)」を演じることでしか自分の価値を保てず、疲れている人間でした。(という風に私には見えました。)アイドルとしての自分を演じ続けることに限界を迎えていた後藤樹理亜は、SNSでのファンの自分に対する解釈の違いから精神的に追い詰められていきます。そして、大切なコンサートの当日に、樹理亜はついにステージを放棄して姿を消してしまいます。 また、茜寧も張り詰めていた糸が限界を迎え、街中を歩き続けて、ついに走る車に身を投げようとします。そして逢によって助けられます。 逢に怒鳴られた茜寧は、ついにこれまで隠し続けていたドロドロとした激情を逢に対して激しくぶちまけます。「裏表も持たないでずっと本当の自分のまま生きてる奴が、私のこと分かった風に止めるな!」 また、アイドルの樹里亜は、その場に立ち会った竜彬にこう話して、ステージにまた戻ります。「私もさっきようやく分かった。真実なんてどこにもないから、あなたが決めて」 また、今まで冷静に茜蜜や樹里亜を観察していた竜彬に関しても、劇的な成長などが描かれることもありません。 ちょっと地の文章がわかりずらく、解釈の難しい小説でした。タイトルである『腹を割ったら血が出るだけさ』って。本当の自分を曝け出したところで、傷ついて血が流れるだけで、分かり合えたり救われたりするわけではない、ってことなのしれません。 茜蜜は逢に激昂し、全てをぶちまけますがそこに爽快感もカタルシスもありません。中身を曝け出しても、世界が劇的に優しくなるわけではありませんでした。腹を割っても、泥臭い現実の中で静かに生きていくしかない。 そんな葛藤を感じさせる青春小説でした。恋愛小説じゃないんだよね。

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