中村融さん編訳のSF短編集ホラーもの。 リチャード・マシスン「消えた少女」 若い夫婦のティナがベッドから忽然と姿を消すところから始まります。家中を探しても見つからず、声だけが壁の向こうから聞こえます。必死の探索の末、カウチの下の空間に「裂け目」が生じており、娘はそこに落ち込んだのだと気づきます。両親は恐怖と絶望の中で救出を試み、ついに娘を取り戻します。日常の中に突如現れる超自然の裂け目と、家族愛が緊迫感を生みます。 ディーン・R・クーンツ「悪夢団(ナイトメア・ギャング)」 暴走するバイカー・ギャングをめぐる一編で、リーダーのルイスの支配と暴力を暗い筆致で描きます。ルイスは、暴力事件で処刑された凶悪犯を生きかえらし、仲間にしているようでした。不死身のギャングたちはこれからも殺しを続けていく。 シオドア・L・トーマス「群体」 下水などの汚染物が起源となって発生した不定形の有機体が都市の下水網で増殖し、周囲の生物や人間を取り込んで成長していくパニック物です。 フリッツ・ライバー「歴戦の勇士」 酒場で昔話をする男たちを通して語られる物語です。酒場で知り合ったマックスはどうやら時間や次元を横断するような戦いに関わっているようです。ある晩、主人公フレッドは彼と行動を共にじすが、彼の闘争相手である化け物を目撃し、恐怖の一夜を過ごします。 キース・ロバーツ「ボールターのカナリア」 超常現象を科学的に解明しようとする技術者アレック・ボールターが、廃墟となったフレイ修道院での撮影を計画するところから始まります。彼は、そこで起こる現象がポルターガイストではなく、自然霊「エレメンタル」によるものだと考えています。ボールターと友人のグリンは、翌日に撮影を行い、異常な現象を記録しようとします。 撮影当日、二人は修道院で異常な現象を目撃します。その後、ボールターは自宅で機材の調整を行っていると、再び異常な現象に遭遇します。どうも修道院から悪霊を連れてきてしまったようです。悪霊は家中の機械を破壊して、帰って行きます。 ジョン・W・キャンベル・ジュニア「影が行く」南極の観測基地で、氷中から掘り出された異形が“完全な模倣”能力を持ち、仲間の誰が本物か分からなくなっていく――という孤立と猜疑、パラノイアを描いた古典です。 フィリップ・K・ディック「探検隊帰る」 火星から調査隊が帰還しますが、彼らは元の人間ではなく「置き換えられた存在」である可能性が示唆されます。彼らは何度でも火星から帰還し、その度に兵士たちによって射殺されます。 デーモン・ナイト「仮面(マスク)」 ジムは事故で身体を失った人間。しかし、脳・脊髄を人工体に移植する「Total Prosthesis(全補綴)」の治療を受けます。移植された当事者の行動や心理が奇異になり、常に“仮面”を着けたがるような不安と疎外感がテーマとなっています。 ロジャー・ゼラズニイ「吸血機伝説」 人類がいなくなった後の世界で、他の機械からエネルギーを吸収して生き延びる“吸血機”のロボット語り手と、最後の(人間の)吸血鬼フリッツとの奇妙な友情を描くポストアポカリプス物です。ロボットと吸血鬼という意外な組み合わせが魅力です。 クラーク・アシュトン・スミス「ヨー・ヴォムビスの地下墓地」 火星で古代都市ヨー・ヴォムビスを調査する考古隊が、地下墳墓で古い寄生生物(粘液状・菌類的な恐怖)と遭遇し、考古学調査隊が襲われる凄惨なホラーです。 ジャック・ヴァンス「五つの月が昇るとき」 月が五つある惑星の孤島にある灯台守ペリンをめぐる怪談風の短篇です。孤独と幻想、あるいは外的な異常が重なり、何が現実か分からなくなっていく心理ホラー的展開が中心です。 アルフレッド・ベスター「ごきげん目盛り」 未来社会において、富裕な男(ヴァンダリュー)とその高級多機能アンドロイドとの関係が崩れ、二者の人格が入り混じるような形で連続殺人が生じます。温度(熱)条件でアンドロイドの挙動が暴走するというトリックが使われています。 ブライアン・W・オールディス「唾の樹」 物語が19世紀末のイギリス・イースト・アングリア地方の小高い丘で、馭者座流星群の観察をしていた青年グレゴリー・ロールズと友人フォックスから始まります。その夜、特に大きな隕石がグレンドン農園の沼地に落下し、翌日、グレゴリーは農園主ネイサム・グレンドンとその娘ナンシーを訪ねます。農園では、隕石の落下後、植物や家畜に異常な変化が現れ始めます。例えば、ミズバショウが異常に巨大化し、家畜が多産を繰り返すなどの現象が報告されます。また、グレンドンの妻が精神的な異常をきたします。グレゴリーは、隕石が異星人の宇宙船であり、農園を支配し始めた存在が「馭者座星人」であると考えます。彼はナンシーと共に、農園での異変の原因を探ろうとしますが、次第に不可視の存在が家畜や植物を食い尽くし、農園は次第に荒廃していきます。最終的に、グレゴリーは不可視の存在と対決し、馭者座星人を撃ちます。その後、沼地から宇宙船が飛び立つ様子が目撃されます。 面白いのは「探検隊帰る」でしょうか?何度でも帰還してくる調査隊。「ヨー・ヴォムビスの地下墓地」は、純粋にホラーとしては1番怖かったです。「五つの月が昇る」は幻想的でまた読みたくなります。 この3短編の出来がとても良かったです。
元の読書記録を見る影が行くの感想・レビュー
P・K・ディック他/中村融
東京創元社
ISBN: 9784488715014
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