本の感想・レビュー
ナイン・ストーリーズ

ナイン・ストーリーズの感想・レビュー

J・D・サリンジャー

新潮社

ISBN: 9784102057018

読者の感想・読書記録

ブックミーに投稿された公開の読書記録です。感想はそれぞれの読者の意見です。

にねさん

一年の計は元旦にあり。 今年は「海外文学に親しむ」一年にしよう、とサリンジャーの『ナイン・ストーリーズ』を読みました。 タイトルのとおり、九つの短編小説がおさめられた作品集。どれも全部面白かったです。 戦争によって日常から置き去りにされ、家族にも理解されず孤独を味わう男が、悲しい決断を下す「バナナフィッシュにうってつけの日」。 少年のような恋人を愛していたかつての自分と、風変わりな娘を理解できずに手を焼く現在の自分、昔と今の対比を通して子どもらしい心を失ってしまった女の悲哀を炙り出す「コネティカットのひょこひょこおじさん」。 高校生のジニーは今まで肩代わりしていたタクシー代清算のためクラスメートの家を訪れるが、そこで出会ったセリーナの兄フランクリンの飾らない人柄や気遣いにあふれた言動に触れ、ジニー自身がやさしい気持ちを取り戻す過程を描く「対エスキモー戦争の前夜」。 とあるスポーツクラブの子どもたちは、引率の青年が語って聞かせる義賊「笑い男」の冒険活劇を、送迎バスの中でのひとつの楽しみに過ごしていたが、やがて青年の恋の行方が創作話の顛末までも左右する「笑い男」。 人種差別というヘビーな問題をはらみつつ、純粋な子どもの愛らしさや家族が持つあたたかさを丁寧に描き、読後感も爽やかな「小舟のほとりで」。 少女エズミとの交流が、ノルマンディー上陸作戦によって負った心の傷を再生へと導く、汚辱と愛についての物語「エズミに捧ぐ」。 不貞行為を繰り返す妻に怒り心頭ながらも、妻を見限ることができない夫と友人の電話越しの会話劇「愛らしき口もと目は緑」。 当時画学生だった主人公がド・ドーミエ=スミスと名乗り、経歴も偽って着任した絵画学校教師としてのひと夏の記憶、いわゆる黒歴史を軽妙な語り口で振り返る「ド・ドーミエ=スミスの青の時代」。 ひとりの少年の神秘と人生哲学に迫る「テディ」。 時代柄というべきか作者の人生経験の産物というべきか、ところどころに戦争の影を感じるラインナップですが、 (実際サリンジャーはノルマンディー上陸作戦に参加しているそうです) 一作一作が非常に読みごたえがあり、登場人物のキャラも立っています。 (キャラクター小説という見方では、個人的に「小舟のほとりで」と「ド・ドーミエ=スミスの青の時代」がおすすめ!) 個人的お気に入りは「バナナフィッシュにうってつけの日」「笑い男」「エズミに捧ぐ」。 バナナフィッシュについては、有名すぎて結末を知っている状態で読んだのですが、初読の時には特に何も思わなかった「ぼくの足は二つともまともな足なんだ」のセリフが二度目に読むと違った印象に感じられました。読むたびに新しい発見があるっていいですね。 しかしさすがはサリンジャー、文章自体は読みやすいのですが非常に難解です。セリフの言葉選びや小道具の配置が絶妙で、解釈に戸惑う場面がたくさんありました。 多くの読書家たちがブログなどで公開なさっている解説や考察を参考にしなければ、読み終えることができなかったと思います。先達はあらまほしきことなり。 ありがとうございました。 最後に。私が本書を知ることとなったきっかけのひとつが、ずいぶん昔に、橋本紡さんの『九つの、物語』を読んだから。 タイトルからしてサリンジャーを意識していますよね(たぶん)。 「コネティカットのひょこひょこおじさん」が作中に登場します。あと出てくる料理が美味しそうで、巻末に紹介されている禎文式トマトスパゲティのレシピ、いつかつくろうと思いながら、なかなかできずにいます。 個人的にはとても好きな話でしたので、趣味が合いそうな方はぜひ。あ、よく書けてる、なんて私は絶対に言いませんよ、私はね。

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