本の感想・レビュー
美ら海、血の海

美ら海、血の海の感想・レビュー

馳星周

集英社

ISBN: 9784087450347

読者の感想・読書記録

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naoさん

かつて人だったもの達のゴミが不快この上ない。そんな言葉が印象的だった小説。 不幸を、戦争を、90歳になる私の祖母は何も話してくれない。機関銃で指先を無くし、マラリアの後遺症で毛の一本も生えなくなってしまった祖母は、過去を語ろうとしない。思い出すことさえ憚れるのだろう。 それでもいつだったか、私が確か小学4年生の頃に戦争について作文課題がだされた。その時に一度だけ聞いたことを覚えている。 目の前で幼かった弟の体が弾け飛び、下半身だけが地面に立ったまま残っていたこと。 マラリアに罹患した時、家族に迷惑をかけぬよう、自ら死体置き場に向かおうとしたが、肉の削がれた足では歩いけず、悔しい思いをしたこと。腐敗した人の足は嘔吐するほど臭かったが、人の焦げる匂いは香ばしくもあったということ。死体をひっくり返しながら母を探したこと。片目から蛆の湧きでる憎き日本兵の手当をしたこと。親友の食糧を奪って空腹を満たした時の絶望的な罪悪感が今でも自分を苦しめていること。死んだ人間の下に隠れていれば、アメリカの機関銃は撃たないという戦争ライフハックも自信たっぷりに教えてくれた。 そんなに苦しめられた戦争だけど、味覚は昔を懐かしむらしく、賞味期限一ヶ月過ぎたドロドロの牛乳が、蒸しただけの泥芋のツタが、今でも好きなことも。 ウクライナの戦争のニュースが流れるたびに、過呼吸になってしまう祖母は今だに80年前の戦争に縛られて生きている。 孫である私の顔を見るたびにお腹空いていないか聞いてくる祖母に、さっきも食べたよと呆れた顔を見せた自分は、絶望的な空腹を味わったことのない幸せクソ野郎だった。 戦争時代に比べれば今は幸せなんだから文句は言えない、なんて説教じみた事は1ミリも思ってないが、私たちはやはりあの時の苦しみに想いを馳せておかねばならない。 まぁそんなこんなだが、祖母は韓国ドラマにハマって偽装恋愛を楽しんでいる模様。楽しそうで何よりなのでNetflixを入れといた。 沖縄の戦争。沖縄の苦しみ。 ぜひ皆さんにも読んでほしい。 内容も話の展開も面白く読めるので、祖母の話しを抜きに本書の小説としての面白さだけで星は評価している。

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