世界でいちばん透きとおった物語
杉井 光
新潮社
2023年04月26日
概要
衝撃のラストにあなたの見る世界は『透きとおる』。大御所ミステリ作家の宮内彰吾が死去した。宮内は妻帯者ながら多くの女性と交際し、そのうちの一人と子供までつくっていた。それが僕だ。「親父が『世界でいちばん透きとおった物語』という小説を死ぬ間際に書いていたらしい。何か知らないか」宮内の長男からの連絡をきっかけに始まった遺稿探し。編集者の霧子さんの助言をもとに調べるのだがーー。予測不能の結末が待つ、衝撃の物語。
ステータス
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メモ
47.そんなにわかりやすいものだろうか。死んでいく者が人生を顧みて改悛するなんて、生きている者の勝手な期待じゃないだろうか?どうせ死ぬとわかっているのならーー見栄も意地も張り続けたまま死ぬ。そう考える奴がいても不思議じゃない。 53.何を謝られたのかもよくわからなかった。というか謝らないでほしかった。ひどく感じが悪い第一印象のままでいてほしかった。まさか父親のことを話したからってにわかに兄としての自覚が芽生えた、とかじゃないだろうな。心底気持ち悪いのでやめてほしかった。 …
47.そんなにわかりやすいものだろうか。死んでいく者が人生を顧みて改悛するなんて、生きている者の勝手な期待じゃないだろうか?どうせ死ぬとわかっているのならーー見栄も意地も張り続けたまま死ぬ。そう考える奴がいても不思議じゃない。 53.何を謝られたのかもよくわからなかった。というか謝らないでほしかった。ひどく感じが悪い第一印象のままでいてほしかった。まさか父親のことを話したからってにわかに兄としての自覚が芽生えた、とかじゃないだろうな。心底気持ち悪いのでやめてほしかった。 68.僕の中で宮内彰吾は「知らない男」から「よくわからない男」に昇格しつつあった。いや、むしろ降格か? 上下の問題ではないか。 自分勝手な放蕩作家ーーというだけなら、分かりやすかったのに。 (人のことを知るということ。知らなければ、無関心のままであれば、気にも留めなかったその人を。ヒトはその人を知り始めると他人と認識できなくなる。他人とそうでない人の壁はあまりにも大きい。) 77.「だから、私もどれが彰吾さんのほんとうの貌(かお)なのかはよくわからないまま。ほんとうの貌なんてのがあるとして、だけど」 77.「やっぱり小説書いてるときのがほんとうの自分なんじゃないんですか。作家なんだし作品には絶対に本性が出ますよね。テーマとか、伝えたいことを込めて書くわけだし」 瑞希さんはまたも心地よく笑った。 「何か伝えたくて小説書いてるわけじゃないよ。テーマとかメッセージ性とか、真剣に分析されると笑っちゃうよね」「少なくとも彰吾さんは、伝えたくて書いてるタイプじゃなかった」「……でも、さすがの彰吾さんも最後の小説に関してはたくさん喋ってくれたっけ」 84.透きとおった、というのが、一つも隠し立てをしない、という意味だったとしたら。/『透きとおっ』ていない物語しか知らない今のままなら、僕にとって宮内彰吾は母を妊娠させて棄てた無責任な男として、うっすらとした軽蔑と分厚い無関心越しに遠く眺めるだけで済む。知ってしまえば、何かしらの判断を下さなければいけなくなるのだ。 89.色んな人に話を聞いて回っているうちに、僕は宮内彰吾のひどい一面を確認することに薄暗い満足感さえ覚えるようになっていたのだ。 100.「読みたいから読む、が小説の幸せな読み方だと思います」 155.僕の中で、父というよくわからない人間は、よくわからないなりに何かの形をとろうとしていた。空虚を宿したまま。 直接話すこともなく、他人からの情報だけで像を組み立てていけば、当然そうなる。 157.多分僕は、父親をはっきりと嫌ったり軽蔑したりできるようになりたいのだろう。作家としての宮内彰吾が賞賛されるのを耳にするたび、もやっとしていた。かといって人間の屑だという評を聞いても、釈然としなかった。憎む理由を自分で見つけたい。なぜそこまで、とは自分でも思う。/そうできないのは、僕があやふやな生活に何か手応えを求めているせいだ。母親が死んだのに、哀しめない自分が心の底から気持ち悪かった。何かを殴り、拳に痛みが帰ってきてほしかった。/敵になってほしかった。母の死が父のせいだった、なんてお話になれば尚よかった。 182.宮内彰吾に怒っていたのではない。ろくでもない男に捕まった母に対してでもない。怒る相手がいないことに、だろう。 183.千景さんは、僕の知らなかった宮内彰吾の側面をなにひとつ提示してくれなかった。でもそんなものかもしれない。僕がこれで感じた通りの、見栄っ張りでだらしない普通の男なだけかもしれない。ありもしない複雑さを追い求めてきたのは、多分ーー母を、見損ないたくなかったのだ。母がその程度の男につかまり、遊ばれ、棄てられたのだと思いたくなかった。もっと悪辣で狡猾な相手ならまだいい。自覚してしまえば、心底馬鹿馬鹿しかった。何にしたって二人とも死んでいる。 217.あんたがいなくたって、僕は母と二人で、ずっと平気でやってこられたんだ、とーーそう思っていたかったのに。無視して暮らしていきたかったのに。もうそれもできない。全て知ってしまったから。 〈その他コメント〉 構成は『永遠のゼロ』っぽさを感じる。当事者の死後にヒトをめぐり、徐々に真相を垣間見ていくような。 207.で本の秘密に気付き、驚きのあまり笑ってしまった。
ひろきさんの感想・評価
他人を知るということ。 知らなければ、無関心のままであれば、気にも留めなかったその人を。ヒトはその人を知り始めると他人と認識できなくなる。他人とそうでない人の壁はあまりにも大きい。 ーーーーーーーーーーー 久々に驚きのあまり笑ってしまった。こんなことよくやってくれたなと。中身がないと言われればそうかもしれない。父や母の描写がもっとほしかった。けれど、その挑戦は賞賛に値するし、何よりワクワク感が心地よかった。高校3年の春、似たような挑戦をした時のワクワク感。結末には笑いが込み上げた。 オッドタクシー味を感じた本作、 次回作も楽しみです。
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