最果ての銀河船団(下)
ヴァ-ナ-・ヴィンジ/中原尚哉
東京創元社
2002年06月
概要
戦争を繰り返しつつ近代化への道を歩む蜘蛛族の世界に一人の天才科学者が現れ、今まさに原子の火を発見しようとしていた。一方、軌道上でエマージェント船団に制圧されたチェンホーたちは長い雌伏の時を過ごす。蜘蛛族世界への侵攻の時がせまるなか、宇宙の深淵で3000年を生きてきた伝説の男が、ついに反撃に立ちあがった!ヒューゴー賞、キャンベル記念賞に輝く、宇宙SF巨編。
ステータス
読んだ
薄雪さんの感想・評価
下巻です。 惑星アラクナでは、シャケナーは妻ヴィクトリー・スミスとともに、従来の社会制度や伝統にとらわれない新しい文明の可能性を追求していました。しかし、彼らの革新的な考え方は保守的な勢力との対立を生み、政治的な緊張は次第に深まっていきます。 やがてシャケナーの子供たちは、キンドレッド側の勢力によって誘拐されてしまいます。子供たちは知恵を絞って外部に救難の合図を送り、救出作戦が実行されますが、その過程で子供の一人ゴクナが命を落とします。 一方、シャケナーは科学者としても大きな成果を挙げていきます。アラクナに存在する奇妙な物質カヴォライトの研究を進め、蜘蛛族の技術文明に革命をもたらしていました。 宇宙船団側では、エマージェントの支配者トマス・ナウが、蜘蛛族の文明発展を利用する計画を進めていました。彼は蜘蛛族の政治勢力を巧みに操り、互いに戦わせることで、その文明を弱体化させ、人間が支配しやすようにします。 その一方で、チェンホーのファム・ヌウェンは、長年にわたって準備してきた反撃計画を進めていました。ファムは老いた修理工ファム・トリニティを装いながら、エマージェントの監視システムを逆手に取り、密かに仲間を増やしていました。彼が構築したローカライザーのネットワークは、通常の監視網では把握できない秘密の通信手段となります。 ファムに協力することになったエズル・ヴィンは、チェンホーの人々を救うため、ナウの支配下で危険な二重生活を続けます。彼は表向きにはエマージェントに協力しながら、裏ではファムの計画を支えます。 エマージェント側のアン・レナルトも、集中化を管理する立場にあり、ナウの体制を支える有能な人物ですが、実際には自分自身も集中化されていました。 キウィ・リゾルトは、エマージェントの居住施設で技術者として成長し、施設の維持や地下経済の運営にも関わるようになっていました。彼女はナウの信頼を得ているように見えましたが、実際にはナウによって長年にわたり記憶を操作されていました。キウィは、友人フローリア・ペレスから妹ルアンの失踪について聞かされます。調査を進めるうちに、記録に不自然な点があることに気づき、さらに母親キラに関する恐ろしい記録を発見します。そこにはナウが彼女の母親を拷問していた事実が残されていました。ナウはキウィの記憶もそこで改竄してしまいます。 蜘蛛族側では、ナウの計画によって戦争の危機が現実のものとなります。キンドレッドと協定側の対立は激化し、ナウは両者を衝突させるためにお互いに核戦争を起こさせようとします。 宇宙では、ファムとエズルたちの反乱計画が最終段階に入ります。ナウは蜘蛛族の戦争を利用して人類側の支配を確立しようとしますが、ファムはローカライザーなどを使った工作によって、その計画を妨害します。 とうとう露骨にファムとナウの闘争が始まります。不意をつかれたナウはチェンホーの居住施設に核攻撃を仕掛けようとします。自分の権力を守るためなら、多数の人間を犠牲にすることもためらいません。エズルは負傷しながらもナウのもとへ向かい、彼の計画を阻止しようとします。 その場にキウィも現れます。ナウは再び彼女の記憶を利用し、エズルが母親を殺したのだと信じ込ませようとします。しかし、キウィは以前のようにナウの言葉を信じません。エズルの言葉を聞き、自分の記憶とナウの嘘を結びつけ、ついに真実を取り戻します。そしてナウが武器を手にしようとした瞬間、キウィはワイヤーガンを手に取り、彼を撃ち殺します。これによってナウの支配は終わり、核攻撃による大量殺戮も阻止されます。 また、エマージェントの軍艦インヴィジブル・ハン号は、操縦士ジャウ・シンが重要な決断を下します。彼はブルーゲルの命令に従って蜘蛛族を攻撃するのではなく、船をアラクナへ不時着させる道を選びます。これによって船内の人々は生き残り、蜘蛛族側は人類の存在を直接知ることになります。 こうして、エマージェントによる蜘蛛族支配の計画は失敗します。人類側の反乱と蜘蛛族側の抵抗が同時に成功し、ナウを中心とする支配体制は崩壊します。 戦いの後、チェンホーとエマージェントの生き残りは、蜘蛛族と正式に接触することになります。それまで人類が一方的に観察し、利用しようとしていた蜘蛛族は、対等な交渉相手となります。人類側は彼らの技術や文明を利用するのではなく、交易と協力によって新しい関係を築くことになります。 集中化された人々についても、解放に向けた取り組みが始まります。アン・レナルト集中化解除に関わり、トリクシア・ボンソルも本来の人格を取り戻していきます。ただし失われた時間や精神的な損傷がすべて元に戻るわけではありません。トリクシアも以前とまったく同じ人間に戻るわけではなく、彼女が身につけた蜘蛛族の言語や知識は残されています。 エズルはトリクシアとの交際を復活させることはできませんでした。長い支配と苦難の中で成長してきたキウィと付き合っていくことになります。 ファムもまた、かつての自分の野望を捨て、自由を奪われた人々を救うという新しい目標を掲げます。彼はアラクナでの勝利を最終目的とは考えていません。エマージェントの本拠地には、いまなお集中化によって支配されている多くの人々がいるからです。 エピローグでは、それから7年後の様子が描かれます。蜘蛛族は宇宙進出を始め、軌道上には新たな施設や造船設備が建設されつつあります。人類と蜘蛛族の協力関係は着実に発展し、両者は新しい文明を築き始めていました。 ファム・ヌウェンとアン・レナルトは、エマージェントの世界へ向かうため、少数の船団を率いて出発しようとしています。一方、エズルとキウィは家庭を築き、人類と蜘蛛族の新しい関係を支える立場になっています。かつて支配と対立の中にあった両者は、今では協力して未来を切り拓こうとしていました。 さらにファムには、もう一つの目的がありました。オンオフ星やアラクナに残された不思議な技術の起源を探ることです。彼は、銀河中心部に存在するかもしれない古代文明の謎を解き明かそうと考えていました。 「おれの計画はこうだ。アラクナ星がやってきた方向へ探索に行くー」と。 とかく長い、分厚いお話でした。読んでも読んでも終わりにはならず。宇宙の深淵を味わえるこの作品。それが逆に良いのもかもしれない。最果ての宇宙、尽きぬ物語。 かなり面白いです。 最果ての銀河船団、というタイトルと鶴田謙二さんの表紙イラストからして、ずっと心に残る名作です。 続編があるようなので、余裕があればまた読んで見たいです。
この本を読んだ人の感想
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