最果ての銀河船団(上)
ヴァ-ナ-・ヴィンジ/中原尚哉
東京創元社
2002年06月
概要
250年のうち35年間だけ光を放ち、それ以外は火が消える奇妙な恒星。その星系には知性を有する蜘蛛型生命が存在していた。彼らの惑星がもたらす莫大な利益を求めて、二人の人類商船団が進出する。だが軌道上で睨みあいを続けるうち戦闘の火蓋が切られ、双方とも装備の大半を失い航行不能に。彼らには、地上の種族が冬眠から目覚め、高度な文明を築くのを待つしか手段がなかった。ヒューゴー賞・キャンベル記念賞受賞。
ステータス
読んだ
薄雪さんの感想・評価
ヴァーナーヴィンジのこの作品。 創元SF文庫で上下2巻の1260ページに及ぶ大作です。 物語の舞台となるのは、銀河系の外れである「オンオフ星」と呼ばれる極めて特殊な星を持つ恒星系です。この恒星は、二百五十年のうち三十五年間しか熱と光を発せず、残りの約二百年間は完全に活動を停止して暗黒と絶対零度の世界に閉ざされるという、気の遠くなるような周期を持っていました。そして、その第3惑星であるアラクナには、長大な暗黒期が訪れるたびに完全な冬眠をして命をつなぐ、クモ型の知性を持つ異星生命体たちが独自の社会を築いて暮らしています。 ある時、莫大な商業的・技術的利益を求めて、亜光速航行で銀河を何千年も巡り続ける自由な商人ネットワークチェンホー船団」 がこのオンオフ星系に到達します。チェンホーの若いトレーダーであるエズル・ヴィンや、彼のパートナーで言語学者であるトリクシア・ボンソルらは、この船団にいました。しかし、ほぼ同じタイミングで、もう一つの巨大な人類勢力であるエマージェント船団もこの星系に姿を現します。チェンホーが自由な交易と個人の自主性を尊重する文化であるのに対し、エマージェントは神経系ウイルスを用いて人間の脳を強制的に改造し、特定の作業にのみ特化した思考ロボットのような奴隷(集中化)として人間を支配する、極めて全体主義体制をとっていました。 チェンホー側が平和的な共存や情報共有の道を模索しようとする中、エマージェントの冷酷な指導者であるトーマス・ナウはチェンホーを油断させた上で不意を突き、星系の主導権を完全に掌握するための卑劣な奇襲攻撃を仕掛けます。この戦いでチェンホー側は敗北を喫し、単独での星系脱出能力を奪われた生存者たちは、やむなくエマージェントの管理下に置かれてしまいます。トリクシアを含めてエマージェントの支配下に入った人々は次々と集中化されていきます。 このような状況下で、エマージェント側の冷酷な実務者として、トマス・ナウやアン・レナルトが君臨します。特にアンは中心人物として立ち塞がります。 一方で、チェンホー側の若きメンバーであるキウィ・リゾルトは、チェンホーとエマージェントの橋渡しになろうと紛争します。(トマス・ナウには利用されていたようですが) また、チェンホーの伝説的な英雄でありながら、自らの真の正体を隠し、一見すると無害で老いぼれたしがない修理工「ファム・トリニティ」として身を潜めているファム・ヌウェンは水面下で抵抗の準備を始めます。彼はエマージェントの強固な監視システムやコンピュータネットワークの裏に、極秘裏にローカルなネットワークの構築を進めていくのです。 ところで、軌道上の人類が生き残るための残された唯一の希望は、惑星アラクナの地表で暮らすクモ型異星人たちが自力で文明を発達させ、いつの日か宇宙へ進出して資源や技術をもたらしてくれることだけでした。そのため、長期間にわたって惑星を忍耐強く監視し、誘導し続けることだけであったためです。 ちょうどオンオフ星の点灯(解氷期)が始まったことで、スパイダーたちは長い冬眠から一斉に目覚め、新たな活動期を迎えていました。天才科学者シャケナー・アンダーヒルが物語の中心となります。彼は、先祖代々受け継がれてきた「厳しい寒冷期にはただ眠ってやり過ごすしかない」という宗教的な因習に強い疑問を抱き、それを打破します。アンダーヒルの主導のもと、熱源の確保、ラジオによる無線通信、さらには油田の開発といった近代的な科学技術改革が凄まじいスピードで成し遂げられていき、蜘蛛族たちの社会は一気に産業革命期のような時代へと突入していきます。 軌道上の人間たちモニター画面を通じて見守る中、蜘蛛族たちの急速な技術発展の様子は手に取るように観察されていました。蜘蛛族の時間も進み、シャケナーの子供たちが護衛なしで街を歩こうとしているシーンで上巻は終わります。 感想は後編で。
この本を読んだ人の感想
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