薄雪夜の国のクーパー
夜の国のクーパー

夜の国のクーパー

伊坂幸太郎

東京創元社

2015年03月19日頃

概要

目を覚ますと見覚えのない土地の草叢で、蔓で縛られ、身動きが取れなくなっていた。仰向けの胸には灰色の猫が座っていて、「ちょっと話を聞いてほしいんだけど」と声を出すものだから、驚きが頭を突き抜けた。「僕の住む国では、ばたばたといろんなことが起きた。戦争が終わったんだ」猫は摩訶不思議な物語を語り始めるーこれは猫と戦争、そして世界の秘密についてのおはなし。

ステータス

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薄雪さんの感想・評価

伊坂幸太郎の『夜の国のクーパー』です。 仙台に暮らす四十歳前後の公務員の男を起点に始まります。妻の不貞で家庭がぎくしゃくした彼は、気分転換に小舟で海釣りに出ますが、急な嵐に遭って遭難してしまいます。 意識を取り戻すと、見知らぬ草むらに蔓で縛られた状態で横たわっており、胸の上には灰色の猫が座っていました。その猫は人間の言葉を話し、「トム」と名乗り、「僕の住む国では、ばたばたといろんなことが起きた。戦争が終わったんだ」と語り始めます。 トムは毒塗りの防壁に囲まれた小さな国に住む猫で、隣の大国・鉄国との八年に及ぶ戦争に敗れた直後の混乱を目撃していました。鉄国からやってきた兵士たちは、住民が初めて見る馬に乗り、銃という武器で国王の冠人を広場で射殺します。国は占領下に置かれ、住民は家に閉じこもるよう命じられます。 この国には「クーパー」と呼ばれる動く巨大な杉の怪物の伝説があり、年に一度、選ばれた青年たち(クーパーの兵士)が討伐に向かい、体液を浴びて透明になり、国の危機に戻ってくると信じられていました。しかし十年前からクーパーは現れず、兵士の選抜も途絶えていました。 占領後、兵士の一人が殺される事件が起きます。片目の兵長は犯人を探し、住民を尋問し、監禁します。住民側では医師らが毒を用いた反撃を計画しますが、国王の息子・酸人の裏切りなどで失敗してしまいます。心優しい青年の弦らも巻き込まれます。 トムは仲間の猫たちとともに様子を見守っていますが、なんとネズミたちに話しかけられます。ネズミは言葉が通じ、猫にこれ以上襲わないように交渉を持ちかけてきます。混乱の中でトムは馬に乗って国を飛び出さざるを得なくなり、冒頭の遭難した男に出会います。 これまでの出来事を語り終え、鉄国の増援を追い払う手助けを頼みます。男は了承し、国へ向かう途中でトムと別れます。 国では弦と酸人の決闘が組まれ、片目の兵長が酸人の武器に細工していたため弦側が勝ちます。兵長は「実は自分はこの国の味方だ」と告白します。 真相はこうでした。片目の兵長たちをはじめとする「鉄国の兵士」は、実はかつて国を出て「クーパーの兵士」として選ばれた者たちでした。クーパー自体は虚構で、国王が鉄国への人材供給という従属を隠すために作り上げた伝説だったのです。毎年青年を鉄国へ送り、生きて帰った者を殺してでも真実を隠蔽し、国王は「良き王」を演じていました。兵長たちは本物の鉄国兵士を襲って服を剥ぎ、偽の鉄国兵士として国に戻り、国王の冠人を殺したのです。 死んだ「鉄国兵士」は彼らが追ってきた本物鉄国の兵士でした。そして、この国は鉄国に比べて極端に小さいものでしたが、さらに言うと仙台から来た男と比較すると、住民や兵士、猫、ネズミのすべてがミニチュアサイズの大きさでした。 トムの合図を受け、男は兵士たちの前に現れます。突然現れた「巨人」に恐れをなした兵士たちは逃げ去ります。危機が去り、国に平和が戻ります。 後日、男は遭難時の小舟を見つけ、妻との関係も心の真相を見つめればやり直せるのではないかと考え、帰る道を選びます。 この話って難しいんですよね。明らかにガリバー旅行記をモチーフにしているし。社会に対する警告とか風刺も含めているみたいです。 巨人と人間、大国鉄国との壁の中の国、そして猫とネズミ。 自分たちの置かれた世界の仕組みに気づき、恐怖に逃げず「自分の頭で考えて対話すること」を選んだとき、猫とネズミも、壁の中の人間も、そして仙台の公務員の男も、それぞれの「囚われていた世界」から一歩踏み出すことができる、という希望のテーマなのかもしれません。 でも、そんなこと考えずに普通に読んでも、ミステリとして面白いです。さすが伊坂幸太郎さんです。

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