薄雪君の話
君の話

君の話

三秋 縋

早川書房

2021年11月03日頃

概要

映画化作品『恋する寄生虫』著者の最新作、待望の文庫化 架空の青春の記憶を植えつけられた青年は、その夏、実在しないはずの幼馴染と出会う。これは、始まる前に終わっていた恋の物語。

ステータス

読んだ

メモ

三秋縋『君の話』 記憶を買ったり作ったりできる世界を舞台にしています。主人公は、天谷千尋。両親に愛されず、ほぼ思い出のない幼年時代を過ごしてきました。レーテという薬を飲み込み記憶を消そうとしたところ、間違ってグリーングリーンという薬を飲んでしまいます。そして自分の過去に「架空の幼馴染」の記憶を誤って埋め込んでしまいます。その幼馴染・夏凪灯花は本来存在しないはずの人物です。ところが、灯花はアパートの隣人として千尋の前に現れます。「夏の魔法はまだ続いている」と。 千尋は当然彼…

三秋縋『君の話』 記憶を買ったり作ったりできる世界を舞台にしています。主人公は、天谷千尋。両親に愛されず、ほぼ思い出のない幼年時代を過ごしてきました。レーテという薬を飲み込み記憶を消そうとしたところ、間違ってグリーングリーンという薬を飲んでしまいます。そして自分の過去に「架空の幼馴染」の記憶を誤って埋め込んでしまいます。その幼馴染・夏凪灯花は本来存在しないはずの人物です。ところが、灯花はアパートの隣人として千尋の前に現れます。「夏の魔法はまだ続いている」と。 千尋は当然彼女の存在を訝しみ、受け入れようとしません。かつての中学の同級生などに確認し、彼女が実際には存在しなかった幼馴染であることも確かめます。それでも二人はひと夏を共に過ごし、花火や祭り、そして生活を共に送ります。千尋は次第に灯花に惹かれていきますが、彼女が架空の存在であることを知っているため、その感情に葛藤し続けます。ところが、ある日灯花はふっと姿を消し、しばらくして再び隣室で千尋は灯花に再会します。けれど彼女は、千尋に関する記憶を失っていました。 物語の後半では、視点が灯花に切り替わります。灯花は幼きころ、千尋と同様に親からは愛されて育ちませんでした。また喘息から友人も作れず孤独な生活を送ってきました。偽の記憶を作るという義憶士として独り立ちした後も、孤独に苦しんでいた。 そしてある日、自分が新型アルツハイマー病であること、余命幾ばくも無いことを知ります。苦しみの中で100パーセントの恋人をつくることで自分の半生を取り戻すことを願います。 苦闘の最中、義憶士としての仕事の中で天谷千尋の履歴書を確認し、彼を恋人にしようと考え、「ボーイミーツガール」という義億を作ります。そして、千尋と一夏を幸せに過ごします。やがて新型アルツハイマーの病が進み、千尋のことすら忘れていくことになりますが、その前に、灯花は手紙を千尋に託します。 千尋は全てを知り、彼女の入院先を訪れ最後をともに過ごします。 「ねぇ、昔の話をして」嗄れた声で灯花は言った 。「私も千尋くんの話をして」 そして偽りの全ての思い出話を、千尋は灯花に話します。

薄雪さんの感想・評価

三秋縋『君の話』 三秋さんの傑作だと思います。 この作品の舞台は、記憶を買ったり作ったりできる世界です。主人公は、天谷千尋。両親に愛されず、ほぼ思い出のない幼年時代を過ごしてきました。レーテという薬を飲み込み記憶を消そうとしたところ、間違ってグリーングリーンという薬を飲んでしまいます。そして自分の過去に「架空の幼馴染」の記憶を誤って埋め込んでしまいます。その幼馴染・夏凪灯花は本来存在しないはずの人物です。ところが、灯花はアパートの隣人として千尋の前に現れます。「夏の魔法はまだ続いている」と。 「この話は嘘だからこそ、本当よりもずっと優しいんだ」 三秋縋さんの話しには多く、どうしようもなく孤独で、空白に満ちた青春時代を送った人たちが出てきます。それだからこそ、青春や普通に対する尋常ではない憧れが作中で描かれます。餓えと言ってもいいですよね。 でも、実際リア充と言えるような青春を送れる人間がどれくらいいるでしょうか。黒歴史をもっていたり、漠然とした学生時代を送ったり、もっと悲惨な幼年時代を過ごしてきた人間も多いと思います。 本当に恋愛とか普通とか、そこに対する憧れや祈りはささやかな願いではあるけれど。悲しいけれど、人生の過ぎ去った時間はたとえ僅かであれ、取り返しがつきません。そんな苦しみを小説のベースとしているからかな。三秋さんの小説はとても優しく心に染みます。

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