ドイツイエロー、もしくはある広場の記憶
大崎善生
新潮社
2008年01月01日頃
概要
永遠に私の前から姿を消してしまった洋一のことを、結婚を控えた今、しきりに思い出すのはなぜだろう。大学時代、決定的な関係を避けて、あやふやに別れた彼との木漏れ日のように温かな記憶(「ドイツイエロー」)。孤独な魂が響き合い、その一夜だけを共にした男が私に刻印した言葉の響き(「いつか、マヨール広場で」)。今でも忘れられない追憶の中で、密やかな調べを奏でる四つの恋愛短編。
ステータス
読んだ
メモ
『ドイツイエロー、もしくはある広場の記憶』 大崎善生さんの短編集です。 以下の4編が収められています。 1. キャトルセプタンブル 主人公・理沙の母親は、かつてパリで村川健二という頼りない男性と出会っていた。1週間を共に過ごた後、彼女は彼に再会場所として「キャトルセプタンブル」というパリの地下鉄駅名を手紙で伝えた。しかし、その場所に村川はこなかった。 理沙は高校生になって、付き合っていた智也に振られた。彼だけと青春を過ごしてきた理沙は他の人間とうまくつながれず、孤独の底に落…
『ドイツイエロー、もしくはある広場の記憶』 大崎善生さんの短編集です。 以下の4編が収められています。 1. キャトルセプタンブル 主人公・理沙の母親は、かつてパリで村川健二という頼りない男性と出会っていた。1週間を共に過ごた後、彼女は彼に再会場所として「キャトルセプタンブル」というパリの地下鉄駅名を手紙で伝えた。しかし、その場所に村川はこなかった。 理沙は高校生になって、付き合っていた智也に振られた。彼だけと青春を過ごしてきた理沙は他の人間とうまくつながれず、孤独の底に落ちる。 やがて理沙はかつて母より聞いた話を思い出し、キャトルセプタンブルに赴く。人は私の前からいつか消えていくかもしれないけれど、懸命に人を愛した渡志野思いはいつまでも自分の中から消えていくことはない。 2. 容認できない海に、やがて君は沈む かれんは以前大好きだった父に去られていた。その際、「容認できない海に、やがて君は沈む それを」という書きかけの手紙を残されていた。高校生となったかれんは、友人の涼子と彼氏であった雅也とも肉体関係を結ぶことになる。雅也との別れのあと、周囲の人間が砂に見えて仕方なかった。帰国してきた父と出会い、愛していると告げられる。父との会話から、容認できない海と出会ったらそれをは回避しないで生きていこうと考えるようになる。 3. ドイツイエロー 大学時代、理佐子は洋一という男性と出会う。付き合うようになるが、洋一はグッピーのドイツイエローの系統維持に夢中であった。理沙子は順調に大学を卒業し、社会に出ていくが、洋一は危ういドイツイエローの育成に夢中のままである。ある日、洋一はふとしたミスからドイツイエローをほぼ全滅させてしまう。それきり、行方をくらましてしまう洋一。 結婚を間近に備えた理佐子は、唯一生き残ったドイツイエローのペアを育ててきていたため、彼にそれを託そうとする。洋一はどこにいるんだろう。 4. いつか、マヨール広場で 高校生のとき、彼氏から振られて以来孤独を抱えて生きてきた礼子。ハンガリーの青い空のイメージを常に脳裏に描いてきた。東西ドイツ統一の際に、東ドイツから西側に逃れる際に仰ぎ見たハンガリーの空だ。 大学生のときには、礼子は森川卓也と一夜を共に過ごす。彼の部屋にはスペインのマヨール広場を描いた風景画が飾られていた。いつか、マヨール広場で酒を飲んだ時に、やっと世間という風景の一部になれた気がするんじゃないかという卓也。その後、卓也には礼子は会うことが叶わず生きていく。 ある日、新聞にはハンガリーの青い空の写真が載る。カメラマンの名前は卓也であった。卓也の入り口に礼子はなれたのだろうか。彼はマヨール広場で安い赤ワインを飲めたのだろうか。 いずれも女性を主人公に据えています。こんなふうに女性が感じることはあるだろうか、と読みながら考えることもありますが、多分話の主題はそこではないです。いずれも喪失を味わった女性たち。次に誰かと恋に落ちて回復するのではなくて、父や母の記憶や、かつての彼のよすがから、立ち上がるきっかりを掴んでいきます。 よくあるハッピーエンドで終わる話がないため、かえって主人公たちの味わう孤独への親近感がわきます。ああ、あるこうやって孤独の底の落ちること、人と上手く繋がれないこと、人間ならあるよねって。
薄雪さんの感想・評価
『ドイツイエロー、もしくはある広場の記憶』 大崎善生さんの短編集です。 以下の4編が収められています。 1. キャトルセプタンブル 主人公・理沙の母親は、かつてパリで村川健二という頼りない男性と出会っていた。1週間を共に過ごた後、彼女は彼に再会場所として「キャトルセプタンブル」というパリの地下鉄駅名を手紙で伝えた。しかし、その場所に村川はこなかった。 理沙は高校生になって、付き合っていた智也に振られた。彼だけと青春を過ごしてきた理沙は他の人間とうまくつながれず、孤独の底に落ちる。 やがて理沙はかつて母より聞いた話を思い出し、キャトルセプタンブルに赴く。 2. 容認できない海に、やがて君は沈む かれんは以前大好きだった父に去られていた。その際、「容認できない海に、やがて君は沈む それを」という書きかけの手紙を残されていた。高校生となったかれんは、友人の涼子と彼氏であった雅也と3角関係を経験する。そして、孤独感を味わい、周囲の人間が砂に見えていく。 3. ドイツイエロー 大学時代、理佐子は洋一という男性と出会う。付き合うようになるが、洋一はグッピーのドイツイエローの系統維持に夢中であった。理沙子は順調に大学を卒業し、社会に出ていくが、洋一は危ういドイツイエローの育成に夢中のままである。ある日、洋一はふとしたミスからドイツイエローをほぼ全滅させてしまう。それきり、行方をくらましてしまう洋一。 4. いつか、マヨール広場で 高校生のとき、彼氏から振られて以来孤独を抱えて生きてきた礼子。ハンガリーの青い空のイメージを常に脳裏に描いてきた。東西ドイツ統一の際に、東ドイツから西側に逃れる際に仰ぎ見たハンガリーの空だ。 大学生のときには、礼子は森川卓也と一夜を共に過ごす。彼の部屋にはスペインのマヨール広場を描いた風景画が飾られていた。 いずれも女性を主人公に据えています。こんなふうに女性が感じることはあるだろうか、と読みながら考えることもありますが、多分話の主題はそこではないです。いずれも喪失を味わった女性たち。次に誰かと恋に落ちて回復するのではなくて、父や母の記憶や、かつての彼のよすがから、立ち上がるきっかりを掴んでいきます。 よくあるハッピーエンドで終わる話がないため、かえって主人公たちの味わう孤独への親近感がわきます。ああ、あるこうやって孤独の底の落ちること、人と上手く繋がれないこと、人間ならあるよねって。
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