薄雪魔王
魔王

魔王

伊坂 幸太郎

講談社

2008年09月

概要

魔王とは何者なのか?魔王はどこにいるのか? 世の中の流れに立ち向かおうとした兄弟の物語。 会社員の安藤は弟の潤也と2人で暮らしていた。自分が念じれば、それを相手が必ず口に出すことに偶然気がついた安藤は、その能力を携えて、1人の男に近づいていった。5年後の潤也の姿を描いた「呼吸」とともに綴られる、何気ない日常生活に流されることの危うさ。新たなる小説の可能性を追求した物語。 魔 王 呼 吸 文庫あとがき

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薄雪さんの感想・評価

伊坂幸太郎さんの『魔王』です。 会社員の安藤は通勤電車の中で席を占領する若者に注意できない老人を見て、「もし自分が老人だったらこう言うのに」と考えます。その瞬間、その老人が安藤の考えた通りの言葉を若者に向かって発します。会社でも同様の現象が起こったことで、安藤は自分が念じた言葉を相手に言わせる力を持っていると確信します。彼はこの力を「腹話術」と名付けます。使い方や限界を検証し、バー「ドゥーチェ」での実験を通じて、相手を見ていなければ力が発動しないことなどを突き止めます。 やがて安藤は、未来党の党首である犬養舜二という政治家に注目します。テレビでの発言や振る舞いから、彼が首相になれば社会が危険な方向へ進むのではないかと強い不安を抱きます。犬養の人気は次第に高まり、社会には排他的な空気が広がり始めます。弟の潤也とその恋人の詩織と遊園地に出かけた際には、乗る予定だったアトラクションの席が事故で大破する出来事が起こり、安藤は自分の命が狙われている可能性を感じます。さらに、アメリカ人の友人アンダーソンの家が放火される事件も起こり、安藤の危機感は一層強まります。 犬養が街頭演説を行うと知った安藤は、「腹話術」を使って犬養に不適切な発言をさせ、評判を落とそうと計画します。しかし演説会場には、安藤の力を妨害できる能力を持つ人物である「ドゥーチェ」のマスターが待ち構えており、計画は失敗します。その場で消耗した安藤は倒れてしまい、その後命を落とします。そして彼が恐れていた通り、犬養はやがて日本の首相に就任します。 安藤の死から五年後、物語の視点は弟の潤也へ移ります。語り手、視点は彼女の詩織となります。潤也は詩織と結婚し、仙台で暮らしています。兄の死後、潤也には「じゃんけんで絶対に負けない」という幸運の能力が備わっていました。ある日、兄の友人だった島と再会した潤也は、島が未来党員となり犬養の側近として活動していることを知ります。また、「ドゥーチェ」のマスターも犬養の周辺に関わっていることが分かり、犬養の周囲で起こる出来事には超能力が関係しているのではないか、兄もその犠牲になったのではないかという疑念を深めます。潤也は、兄が立ち向かおうとしたものに自分なりの方法で向き合うことを決意し、幸運の力を使って競馬で資金を得て、将来に備えます。潤也は「馬鹿でかい洪水が起きた時に、水に流されないで立つ一本の木になりたい」と言います。 伊坂さんの本はいつもミステリーとして、謎解きやどんでん返し、なんらかのカタルシスがあるのですが、この話しにはそれがありません。なので、エンターテイメント性は少ないです。 本のタイトルである魔王とはどういう意味でしょうか? 犬養という政治家は出てきますが、彼も悪役として書かれているわけではありません。 「魔王」は、特定の一人の人物そのものというより、社会の空気を支配し、人々を無自覚に従わせていく力そのものなのかもしれません。 それは無関心も含まれるかもしれませんし、同調圧力や人々が自分の意思を手放してしまう状態や、それを生み出す社会の構造を指している…のかな、と。 兄の安藤は、その雰囲気に直接的に戦いに行こうとしますが、弟の順也はそうしません。何かあった時のために耐えれる準備に取り組みます。 戦いの仕方が違うということです。 表面的な読みやすさとは別にちょっと難しい話しですよね、この本。明確なオチもないですし。 ただ、後続の小説『モダンタイムス』に話は繋がっていくそうです。

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