占星術殺人事件
島田荘司
講談社
1987年07月01日頃
概要
怪事件は、ひとりの画家の遺書から始まった。その内容は、6人の処女から肉体各部をとり、星座に合わせて新しい人体を合成する、というもの。画家は密室で殺された。そして1カ月後には、6人の若い女性が行方不明のあげくバラバラ死体となって…。奇想天外の構想、トリックで名探偵御手洗潔をデビューさせた、衝撃的傑作。
ステータス
読んだ
薄雪さんの感想・評価
島田荘司『占星術殺人事件』の詳細なあらすじです。以下は結末まで含む完全ネタバレです。 物語の発端は1936年2月26日です。東京では二・二六事件が起こったこの日、画家の梅沢平吉が自宅の離れにあるアトリエで殺害されます。平吉は後頭部を殴られて死亡しており、アトリエは内側から鍵がかかった密室状態になっていました。外は大雪で、周囲の雪には男と女と思われる二種類の足跡が残されていました。 平吉の死後、アトリエから奇妙な手記が発見されます。その手記には、平吉が「アゾート」と呼ぶ究極の女性を作り出そうとしていたことが書かれていました。アゾートとは、六人の若い女性から身体の各部分を切り取り、それぞれの最も優れた部分を組み合わせて、完全な美しい女性を作り上げようという恐ろしい構想です。平吉は占星術にもとづいて、どの女性から身体のどの部分を取るかまで計画していました。 この手記が後に起こる事件の重要な伏線になります。平吉が殺されたにもかかわらず、その後、手記に書かれていた計画そのものを実行したかのような猟奇殺人が起こるからです。 梅沢家には多くの女性が関係していました。その中でも重要なのが、平吉の娘たちです。一枝、知子、秋子、雪子、時子、礼子、信代らが事件に巻き込まれていきます。特に時子は、平吉と前妻・多恵との間に生まれた娘で、この複雑な家族関係が事件の動機に深く関係しています。 平吉殺害からしばらくして、長女の一枝が一人暮らしをしていた自宅で殺害されます。一枝は後頭部を殴られて死亡していました。さらに一枝は殺害された後、性的暴行を受けたように偽装されていました。体内からは男性の精液が検出されたため、警察は男性が一枝を襲って殺害した可能性を考えます。 その後、平吉の手記に書かれていた「アゾート計画」を現実に再現するかのような大事件が起こります。平吉の家族である六人の若い女性が次々と犠牲になり、遺体が日本各地から発見されます。 遺体には共通する特徴がありました。それぞれの身体の一部が切断されていたのです。そして、その切断された部分は平吉の手記に書かれていたアゾート計画と対応していました。 そのため警察は、平吉が生前に書き残した「六人の女性から身体の一部を切り取り、究極の女性アゾートを作る」という計画を、誰かが実際に実行したのだと考えます。 遺体は日本各地に分散して捨てられていました。1936年当時にこれほど広範囲へ遺体を運搬するには大変な労力が必要です。犯人自身がすべてを行ったと考えると、かなり大掛かりな犯罪になります。 以下、ネタバレです。 この事件を占星術師である御手洗潔が解いていきます。 一枝殺害事件に関係していた警察官の竹越は、事件当日に一枝と会ったと考えていました。しかし実際には、そのとき竹越が会っていたのは、すでに殺されていた一枝本人ではありませんでした。一枝を殺した犯人は、その後、一枝になりすまして竹越の前に現れていたのです。また、6人の女性を殺したのも同一人物でした。 その人物が時子です。 時子は一枝を殺害した後、一枝になりすまして竹越と接触します。そして竹越と性的関係を持ちます。その結果、竹越の精液が一枝の死体に残ることになります。これによって、警察から見ると「一枝が殺される直前まで生きており、その後、男性に性的暴行を受けて殺された」という状況が作られます。 竹越自身は、自分が一枝殺害に関係してしまったのではないかと疑われる立場になります。時子はこの竹越の弱みを利用します。そして竹越を脅迫し、後の犯罪に協力させることになります。 他の5人の娘を殺した時子は、彼に遺体の運搬をさせます。つまり、全国各地に遺体を運んだのは、竹越です。竹越は自分が事件の犯人として疑われることを恐れ、時子の命令に従うことになります。 しかし、この事件にはさらに大きなトリックがあります。 実は、世間や警察が考えていたように「六人の女性が殺された」わけではありません。 実際に殺害された女性は五人です。 では、なぜ六人分の遺体が存在したのでしょうか。 それは、時子が五人の遺体を切断し、身体の各部分を組み替えることで、六人分の「身体の一部を欠いた遺体」を作り出したからです。 つまり、一人につき一体の遺体があるように見せながら、実際には複数の遺体から身体の部分を組み合わせていました。そのため捜査側は「六人が殺害された」と考えてしまいます。 そして、このトリックの最大の目的は、時子自身を犯人候補から消すことでした。 時子は、自分自身も六人の犠牲者の一人として死んだように見せかけます。つまり、六人の死体の中に時子の遺体があると思わせるのです。 もし時子が生きていれば、六人の女性のうち一人だけが行方不明になっていることになり、当然、彼女自身が疑われます。しかし「時子も殺された」と思わせることができれば、時子は犯人ではあり得ないことになります。 こうして時子は、自分自身を被害者にすることで、犯人として追及される可能性を消してしまいます。 この事件では、さらに平吉の手記が巨大なミスリードとして働いています。 警察は「アゾート」という言葉に引きずられます。六人の女性を殺害し、身体の部分を切り取って一人の完璧な女性を作ろうとしたという平吉の異常な計画があまりにも強烈だったため、後に起こった殺人事件もその計画の実行だと考えてしまいます。 しかし、実際には「完成したアゾート」は存在しません。アゾートは犯人が作った巨大な煙幕だったのです。 そして40年以上が経過し、1979年、事件に興味を持った石岡和己は、天才的な推理力を持つ御手洗潔にこの事件を持ち込みます。 御手洗は、これまで誰も解決できなかった占星術殺人事件を死体の欠落していた部分という視点から解決し、実際に京都で暮らしていた時子からの自白も得ます。 時子は父親の平吉も殺害していました。さらに一枝を殺し、一枝になりすまして竹越を利用します。その後、他の女性たちを殺害し、遺体を切断して身体の各部分を組み替えます。雪の上に残された男と女の足跡も、複数の犯人がいたように見せるための偽装です。 しかし、時子がなぜそこまでして犯罪を実行したのかという問題があります。 その背景には、梅沢家の複雑な家族関係があります。前妻の多恵を捨て、また多恵や自分に辛くあたる梅沢家への復讐でした。 時子は自分が犠牲になったように見せることで、長い間、社会から姿を消します。 年月が流れ、時子は再び母親の多恵と関わることになりますが、ここで時子は、自分が母親のために起こしたと思っていた犯罪が、結局は母親を幸福にしたわけではなかったことを知ります。自分が長い年月をかけて実行した巨大な復讐と偽装は、取り返しのつかない多くの犠牲を生んだだけでした。最後に時子は、御手洗さんと石岡くんに手記で全てを告白して、死を選びます。 御手洗シリーズの原点のようなこの作品。 後続の作品のように御手洗潔と石岡くんのキャラが立っているわけではありません。ただ、御手洗潔の優しさは、すでにこの作品から現れていて、私は好きです。 ミステリ界の御手洗潔とフィリップ・マーロウは、2人とも優しい名探偵ですよね。
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