ばんウォン人生教習所
人生教習所

人生教習所

垣根涼介

中央公論新社

2011年09月

概要

ひきこもりの休学中東大生、南米へ逃亡していた元ヤクザ、何をやってもダメな女性フリーライターなどー人生に落ちこぼれた人間たちが目にした「人間再生セミナー 小笠原塾」の募集広告。錚々たる団体・企業が後援し、最終合格者には100%就職斡旋。一体、主催者の目的は何なのか?遙かなる小笠原諸島で、彼らを待ち受けていたのは、自分たちが知らなかった日本と世界、そして美しい自然。今、彼らの中の「なにか」が変わりはじめた…。清々しい読後感へと誘う物語。

ステータス

読んだ

ばんウォンさんの感想・評価

基本的には最初にプロローグが書かれてある3人中心だが、主人公は東大2年の浅川太郎。 そして元ヤクザの柏木、38歳くらい。 最後にかなり太っている森川由香30歳。 同じグループの竹崎も良いバイプレイヤーだった。 浅川太郎はレールに乗ったまま来てしまった自分の人生、頭が良すぎるが故に自分の人生を達観しているような様子の青年。しかし、この青年の人生の転機は、高校生の時に見た母親の不倫現場。一人っ子で育ち、不自由なく生活を送り、母親も父親も自分のことを中心に生きていると思っていた。そして、仕事をしていない母親は自分以外に何の生きがいもないのだろうか・・・と思っていた矢先に訪れた母親の不倫という事実・・・。20歳になるかならないかの少年、そしてこの人生経験からするに、精神的に不安定になったに違いない。しかし、この青年にとっては、今まで家庭と同世代しか関わりのなかった世界から、さまざまな経験を積んだ竹崎や柏木のような人物に出会ったことは、人生の転機になったに違いない。残りの休学期間を与那国島の居酒屋での住み込みで過ごすという結末。東大生というレールにただ乗った人生よりも充実した人生を送るのだろう。 元ヤクザの柏木。幼少期の家庭環境のちょっとした差で、人は浅川にも柏木にもなりうると教えてくれているような気がした。柏木のこのセミナーへの志望動機は、命を取るか取られないかの世界、女性をソープ送りにしたり、高額な上納金をビクビクしながら稼ぐことへの疲れ、堅気になりたいというものだった。柏木のセミナーの試験に対する答えや行動は実に人間臭くて個人的には好みだった。やはり、垣根さんは午前3時のルースターやワイルドソウルに現れているように、ヤクザとかマフィア的な人物の思考を表現するのが上手い。学はないが、人間的には賢く、本質をついている人物で、読書好きという設定も面白かった。自分がもしあの試験問題を解くとしたら、柏木的な解答をするかもしれないと思った。教員をしてると人間がよく見える。その人間臭さは柏木に通ずるのかもしれない。森川を勢いで押し倒してしまうシーン。実に人間臭い。浅川にはない行動だろう。でも男なら誰しも柏木のような気持ちになったことがあるのだろう。柏木と浅川のやりとりもまさに凸凹コンビ。正反対なのに話が合ってしまう人間の面白さを感じずにはいられない。最後は雑誌の編集者になり、ヤクザの知り合いのつてを辿って暴力団関係の記事を書いているらしい。なかなか堅気に戻るのは難しいのだなと感じさせられる。いつか柏木に本当の堅気のように過ごしてもらいたい。 森川は自信がなくここまで生きてきてしまった人のように思えた。行動できなかった人間。それは男女とか関係なく刺さりまくった。30歳で交際経験なし。しかし、強姦にあった女性を取材してこいと言われるまで落ちてしまう青学卒の才女。レールに乗っただけでは社会人になった世の中は生きていくことができないのだと森川を通して教えられている気がした。柏木に見せた優しさこそ、本来彼女の持つ魅力なのかもしれない。散々お世話になっても(暑い山道を何キロもおんぶで運んでもらった)、やはり一つの過ち(急に襲われ途中で叫んでやめる)で無茶苦茶になるこの世の中の縮図のような森川と柏木の出来事に他人事とは思えない感情が芽生えた。結末は社会福祉関係のライター。落ち着いて仕事ができる環境は彼女にとって居心地が良いものかもしれない。 第一章の父島編のセミナー、第二章の母島編のフィールドワークやアメリカからいきなり日本になった島民の体験談を聞く講演。 人物の過去と小笠原の環境、人々。セミナーの内容。 これからの人生を考えるにすごく影響を与えてもらった。 まだ自分は柏木でいたいなと思う33歳の春。

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